TALES OF THE ABYSS -8番目の譜歌-8
シュウが居る医務室はベルケンドにある音素研究所の
画一化された部屋の連続したその先だ。
ここの研究者達は“画一化されていてわかりやすい”と言うのだが、
されているからこそ余計に紛らわしく感じるのは気のせいだろうか。
「では、彼が眠る前に何があったかは一応わかりました。
暫くかかると思いますので、皆さんはここでお待ち下さい。」
ジェイドが経緯を大まかに話すと、白衣を身に纏ったシュウは
扉を閉める前にそう言った。
ティア達はその手前の部屋で待つことになる。
「大佐、そろそろ話してくれますか?
ルークは何故気を失って眠り続けているのかを。」
「ええ。そうですね。――ルークが眠ってしまったのは
彼女が譜歌を歌った直後です。」
知らないような言葉が出てくると思っていた皆は
以外にも聞き慣れた言葉をジェイドが言ったことに、内心驚いた。
「第一譜歌のナイトメア・・・ってことですか?
でも第一譜歌じゃ長時間眠ったりしない、ですよね?」
フローリアンが問う。
「そうです。彼女は――トゥナという名だそうですが、
大譜歌を逆に歌いその直後ルークが倒れました。」
「・・・?大譜歌を逆に?ティア、何か知ってるかい?」
「いえ、わからないわ。・・・彼女は聞いたこともない第八譜歌を知っていた。
私達のことも知っている風だったし、何者なのかしら・・・。」
第八譜歌を知り、大譜歌を逆に歌う少女。
逆の大譜歌を聞いた途端に眠ってしまったルーク。
暫くいろいろと考えてもみたが、不確定な要素が多すぎて、何もわからずじまいだった。
結局はルークの結果を待つしかないのだ。
皆が考えに耽っていると、医務室の扉が開いた。
「こちらへどうぞ。」
ルークが検査されていた部屋に入ると、ルークは相変わらず
検査ベッドの上で眠っている。
シュウが一度咳払いをし、話し始めた。
「彼の血液中――血中音素に異常がみられます。」
「!」
「念のため血液検査をしてみたのですが、普通彼のような第七譜術士は
血液中に第七音素があり、酸素のように体内を巡るのですが、
彼の血中第七音素は、全身を巡っていない・・・。
全く活動を停止してしまっているのです。」
誰かのゴクッという唾を飲む音が聴こえた。
静寂の沈黙を破ったのは、フローリアンだった。
「で、でも、たとえ血中音素が停止しても・・・その本人が行動不能
なんかにはならない、ハズです・・・!!」
懸命に力強く訴える。声は少し震えているが、その瞳は確かに自信を
持っている。
初めて会った時は何もかもに怯えていたのに、今は頼もしささえ感じる。
「その通りです、フローリアン。普通の人間ならそうでしょうね。
ところがルークは・・・」
「・・・第七音素と音素振動数が同じだから、てヤツか?」
ジェイドの言葉の続きを繋いだのはガイだった。
その問いに答えるシュウ。
「ええ、恐らくそうでしょう。彼の音素振動数は第七音素と同じです。
相手のした行動が、なんらかの形で彼の体内の第七音素に異常を
もたらしたのでしょう。」
「何か、治す方法はありますの?」
「私には今のところ、手だてはありません。申しわけありませんが。」
なんとなく予想はしていたが、その言葉に気を落とすナタリア。
つい唇を噛み締めてしまう。
何も出来ない自分が歯がゆいのだ。
落ち着かない様子で、アニスが尋ねる。
「大佐も何かいい考えとかないんですかぁ?」
「残念ながら、名案はありませんね。
・・・話し合うにしても、いつまでもここに居る訳にもいきません。
とりあえず宿へ行きましょう。」
暗い面持ちで宿屋に向かう途中、フローリアンが遅れて歩いている事に
気が付いたアニスが彼を呼んだが、返事がなかった。
高く通る声で名前を呼んだにも関わらず気づいていないようだ。
フローリアンは片手を胸の前で握って何やら深く考え込んでいる。
「フローリアン、今無理して考えてもきっとまだ答え、出ないよ。
一回落ち着いてから考えよ?」
フローリアンは少し躊躇ってから、ゆっくりと口を開いた。
「――こう。」
「え・・・?」
「セレニアの花畑に、ルークを連れてこう。」
「タタル渓谷に?・・・なんで?」
アニスはいきなり出たその名前に首を傾げた。
何故フローリアンは断言出来るのか、と。
「理由、言えないけど・・・お願い!セレニアの花畑に・・・ルークを・・・!」
必死に訴えるフローリアンの気持ちを察したのか、ガイはルークを
しっかりとおぶって街の出口に向かい、言った。
「皆、行こうぜ?フローリアンがそう言うんだし。部屋ん中でいつまでも
辛気くさくすんのは止めだ。」
「そうですわね。ノエルにお願いして直ぐにタタル渓谷に向かいましょう。」
仲間が次々と歩き出した。
「そーだね!行こっか!・・・・・・フローリアン、理由はまた今度、
教えてくれるよね?」
「う、うん。ゴメン。絶対言うね。」
「あんまり気にしないの!秘密事の一つや二つ、誰にでもあるじゃん。」
自分で言った言葉だった。
しかし、以前逆に自分が言われた気がしてアニスは懐かしい声を思い出した。
『アニス、どうしましたか?最近考え込んでるみたいですが。』
『ご、ごめんなさいっ。・・・ちょっと、話せない事です。
あたし、サイテーですよね。
導師守護役に就任したばっかでイオン様に隠し事なんて・・・。』
『そんなことありません。
誰にだって秘密にしている事くらいあります。
・・・僕だって例外では、ないんです・・・。』
『・・・イオン様?』
「アニス?どうしたの?」
フローリアンに呼ばれ、自分がぼーっとしていたことに気がついた。
そして、記憶のイオンと目の前のフローリアンを重ねてしまい、自分を戒めた。
「はわっ!な、なんでもないよ。行こっか!」
「うん!」
街の入り口にノエルを発見し、ガイは近くまで走り寄って話しかけた。
「待たせてすまなかったな。悪いがタタル渓谷まで頼む。ノエル。」
「わかりました!タタル渓谷ですね。」
ノエルは元気良く返事をし、“早く行きましょう”と静かにガイを促した。
何も言わずとも、状況をわかってそうしてくれたのだろう。
彼女には操縦の腕以外にも驚かされる。
一向はそのまま走ってアルビオールに乗り込んだ。
飛行するアルビオールの中でふとティアが口を開けた。
「ノエル、いつも迷惑かけてばかりでごめんなさいね。」
「そんな事ないです!
私にとって皆さんの為にアルビオールで飛び回る事は本当嬉しくて!」
その弾む声と屈託のない笑顔を見て、ガイは少し安心した。
「そう言ってくれると俺も嬉しい。
もし君に辛い思いをさせているのなら、と思ってね。」
「有難うございます、ガイさん。」
ノエルは一呼吸入れてから眠り続けるルークを振り向き、静かに言った。
「・・・ルークさんはまだ、目覚めないんですね・・・。」
「ああ。原因はわかったんだが・・・。」
「では何故タタル渓谷に?」
てっきり解決策が見つかったためタタル渓谷を目指していたのだと
思っていたノエルは首を傾げた。
「あの、ぼくが言い出したんです。
理由も言わないのに皆信じてくれて・・・」
「気に止めない事です。理由が言えないという事は、
何か根拠あっての事なんでしょう。」
「は、はい。今度ちゃんと理由、言います。」
言葉に力が入る。
その話し方から自身のあることなのだと、周りの者を思わせる。
「皆さん、着きましたよ。」
その言葉の直ぐ後、
昼なのでまだ咲かないセレニアの花畑が近づいてきた。
「久しぶりね。ここに来るなんて。
ここで、ルークがあの月夜・・・帰って来たんだわ・・・。」
日が沈まぬタタル渓谷はただの草原なのだが、夜の景色を知って
いると頭にあの風景が浮かぶ。
約半年前、ルークの成人の儀が行われた日、突如皆の元に姿を現したルーク。
本人さえもローレライ解放からの2年間、自分に意識はあったのか、
何故戻る事が出来たのかはわかっていない。
ジェイドの言うコンタミネーション現象説にしても、それなら何故2年も
かかったのかは説明出来なかった。
タタル渓谷に着いてから1時間が経過したが、
何も起こる事はなく時間は過ぎていった。
「夕日、キレイ。もうすぐ日が沈むね。」
フローリアンの“夜になるまで待って”という言葉を信じ、
それまでの間は皆くつろいでいた。
あと数分で日が落ちる。
「あ・・・セレニアの花が咲いていく・・・。咲く瞬間を見たのは初めてだな。」
「ええ。綺麗ですわ。」
暗くなってゆく空のグラデーションに合わせて、緑の花畑が白く染まっていく。
その時、一層白く光る場所があった。
「ルークが・・・。」
「白い光に、包まれていく?」
白銀とも言える輝きに、ルークは照らされていた。
輪郭のはっきりしない光は、少しずつ黄色に色を変えながら
くっきりと輪郭を表した。
「これは・・・第七音素の輝き・・・!」
-アトガキ-
なんでピオニー陛下よりシュウの出番が多いかは突っ込ままいでくだされ!^^;
フローリアンが怪しくなって来ましたね〜。
何故フローリアンはセレニアの花畑に行こうと言ったか、何故セレニアの
花畑なのかは次回をお楽しみに!
しかし更新遅くなってごめんなさい!でも夏休みが終わって学校再開なので、
少しは早くなると思います!
ではではこの辺で!
次回はルーク復活なるか!?
