TALES OF THE ABYSS -8番目の譜歌-7
七つ――否、八つの内の一番最初の譜歌が
室内の静寂を切った。
- トゥエ レィ ズェ クロア リョ トゥエ ズェ -
「っ・・・・・・」
「ルーク!?」
・・・ドサッ・・・
第一譜歌が響いて、その余韻さえ消えた瞬間。
ルークが、倒れたのだった。
「ルーク、どうしました!?」
柄にも無く大きな声で倒れた彼を呼び、体を
揺さぶってみるものの反応は無い。
しかし鼓動は感じられる。
呼吸も正常だと確認し、ジェイドは一息をつ
いた。
しかしそれも束の間、背後でした微かな気配を
感じとり槍を発現させた。
「全く。あなたが何をしたいのかはわかりませ
んが、ルークが目的なのは確かなようですね。」
「解っているのなら、協力して欲しいんだけど。
ルークを渡して。・・・言っておくけどこの
ままでは彼は目覚めないわよ。
この世界のために彼は必要なの。」
「あなたの詳しい目的はわかりませんが、
私は自分がお仕えする方以外の人間の命令を
聴く趣味は在りませんので遠慮しておきます。」
トゥナの目付きがかわり、二本のナイフを両手に
こちらへと走りかかってきた。
譜術を使わすまいと言わんばかりに浴びせてくる連
続攻撃を避けなから、精神を集中させる。
「炸裂せよ・・・『エナジーブラスト』ッ!!」
音素が収束し、小さな爆発が起こる。
トゥナがまともに喰らったかどうかは解らないが
それによって出来た隙をジェイドは見逃さなかった。
(譜術を使わないのは不利ですが屋内では
譜術は使いたくありませんからね・・・。)
直ぐにルークの元へ駆け寄り、半ば引きずるよ
うにして、窓から外に出た。
「ルーク・・・見当たらないわね。」
バチカルを出て、あちこちを低空飛行している
アルビオールだったが、未だにそれらしき人影
も見当たらない。
そろそろ方法を変えた方がいいのではないかと、
そう思い始めた時だった。
ピピーッ ピピーッ
「きゃわ!ノエル、今の何の音!?」
「驚かせてすみません。この音はアルビオール
に新しく取り付けた遠距離通信機器です。音
機関の一種で、空気中の音素を利用している
と聞いています。」
“音機関”。その言葉を聞いた瞬間飛び上がっ
た人間がいた。
「遠距離通信機器!?第何音素を利用してるんだ!?
ノエル、教え――」
「まだ各首都とダアトとしか繋がりませんが。
何処からでしょう・・・。」
そう言ってノエルは通信機器を通信出来る状
態にした。
「ねぇ、なんかノエル、ガイの扱い方上手く
ない?。(ボソ)」
「えぇ、私達も見習わなければいけませんわね。」
「なんか突っ込みどころがズレてる気がする
んだけど・・・。」
「こちらアルビオール。そちらは?」
ノエルが機器に繋がっているより小さな機械
に向けてそう喋ると
機内全体に返事は聞こえた。
『こっちはグランコクマだ。俺だよ。解るだろ?』
「「「「ピオニー陛下!?」」」」
『ああ。あんまり気軽にどいつも使えると、
それはそれで面倒だから俺が使うようにし
てるんだ。
アルビオールに連絡なんてどうせお前等に
だけだろうしな。』
普通、連絡などという雑務は皇帝がするよう
なことではないのだが・・・。
そこは皆、“あのピオニー陛下だから”と割
り切るしかないのだった。
『そうそう、ジェイドが“ルークはこっちに
居る”だってよ。
しかもさっきから軍本部の方が騒がしくてな。
まぁとにかく来てやれ。』
「ルーク、見つかったんですね!
わざわざ有り難うございます、陛下!!」
『気にすんなって。じゃあな。』
相変わらずの軽い挨拶を交わし、プツッ、と
通信が切れた。
“軍本部が騒がしい”
その一言は皆を不安にさせたが、見つかった
事に安堵もした。
「あの女の人も一緒なのかな・・・。」
「だぁいじょーぶだって!」
「安心しましたわ。今からグランコクマに向
かいましょう。ノエル、お願いしますわ。」
「はい!ルークさんのところへ急ぎましょう。
――アルビオール、音素安定・・・速度最高
・・・スロットル全開・・・!
皆さん、飛ばしますよ!」
「あなたが譜術を使うために外に出たところで
ルークを連れ去ろうと思っていたんだけど。
さすがは死霊使い。厄介ね。」
同じく窓から追いかけて来たトゥナは、しかし
まだまだ余裕だといわんばかりの笑みを浮かべ
てそう言った。
「あなたが何のためにルークを必要としている
かは知りませんが
ルークを放っておいて何かしでかされたら困
りますから。」
「詳しい事は言えないわ。でもこのままでは世
界は消滅する。
私はそれを防ぎたいだけよ。」
「それなら預言を詠んでいるフローリアン達を
攻撃し、譜石を奪う必要はありませんね。」
「・・・・・。」
「この場は取りあえず退いていただきましょう。」
半分笑いながらそう言い、表には出さなかった
が、ジェイドは真剣だった。
トゥナが譜歌を使えることを危惧しているのでは
ない。1対1だから詠唱を止めれば問題はない。
ただ
トゥナは現にルーク、ティア、ナタリアの3人が
いたと言うのにほぼ無傷で、計画的にルークと超
振動を起こし、
逃走することに成功しているのだ。
暫く無言の状態が続いたが、ジェイドはこちらの
様子を見て周りでざわざわとしている人々に大き
な声で言った。
「ここは危険です!皆、離れなさい!
・・・・・・――焔の檻にて焼き尽くせ・・・!
『イグニートプリズン!!』」
吹き上げた炎が檻となり、対象者を攻撃する火属
性譜術だ。
喰らえばかなりのダメージを与えることが出来る。
ところがその炎の中にトゥナの姿は見えない。
間一髪で避け、ジェイドの死角から獲物を構えて
迫っていたのだ。
しかしそれを見逃すようなジェイドではなかった。
こちらも槍を発現させ、構える。
「双破瞬連――」
「尖雷葬昂――」
「お待ちなさい!!!!」
...カッ
二つの刃が交わる
まさにその瞬間だった。
凛とした静止の声が聞こえたと思うと、一本の矢が
二人の間の僅かな距離に突き刺さった。
見るよりも先に音に感付き、お互いに後退する。
「民が居るこの場で闘いを始めるなど
許されませんわ!!」
天――空のアルビオールから弓を構え二人を叱咤し
たのは、ナタリアだった。
「ルーク!!!」
「大佐、めんどくさそうにしてたけど、大活躍じゃ
ん!」
アルビオールは降下し地面に着くと、ガイを先頭に
こちらへ駆け寄ってきた。
「大佐、彼女が譜歌を・・・。」
「そのようですね。」
皆が集ったことにさすがに敵わないと踏んだのか、
ナイフを腰の鞘にに入れ直し言った。
「この人数相手じゃ、戦うだけ無駄みたいね。折角
いい機会だったのに、残念だわ。」
そう言葉を残し、街の入り口――テオルの森へと駆
けて行った。
「待ちなさい!ルークを目覚めさせる方法を――
・・・っ!!・・・間に合いませんでしたか・・・。」
直ぐに声を張り上げるが、返答もないままトゥナを
逃してしまった。
“このままではルークは目覚めない”
その言葉が頭に残る。トゥナだってルークを必要と
しているのだから方法がないわけではないだろう。
しかしその方法が解らなければルークはこのままに
なってしまう。
珍しく焦るジェイドを見て、ティアが心配になって
話しかける。
「大佐、何があったんですか!?ルークはただ気絶
しているだけではないんですか?」
眠ったままのルークを抱き上げ、瞳を震わせて返事
を恐る恐る待つティア。
ルークとジェイドを交互に見ていて、不安に駆られ
ているのが解る。
皆が周りを囲み、眠ったままのルークを見つめる。
フローリアンはずっとアニスの手を強く掴み続けて
いる。
その手をアニスは優しく握り返した。
「詳しい話はベルケンドでしましょう。」
「ベルケンド?」
「ええ。ベルケンドの医務室でシュウに診てもらい
ましょう。」
「何故、グランコクマのお医者様ではいけませんの?
早く診ていただいたほうが・・・」
「あまり推測で話をしたくはないのですが・・・。
原因から推測すると、体内の音素が関係している
と思われます。
ですから、一般の医者に診てもらったところで無
意味でしょう。」
シュウは、ベルケンドの音素研究所に居る名医だ。
勿論医学の知識もさることながら、音素や譜術につ
いての知識も相当なものだ。
「じゃあ早いトコ行こうよぉ。善は急げって言うで
しょ!」
「そうだな。――よっと。ルークは俺がおぶってい
くよ。
・・・ティア、心配すんな。シュウに診てもらえ
ば直ぐに原因なんかわかるさ。」
ティアの顔から、少し不安が消えた。
「そうね。ありがとうガイ。本当にあなたは優しい
わね。」
そう言ってガイに一歩近づくが、ガイは素早く後退
してしまった。
旅の途中、結局治らなかった“女性恐怖症”だ。
「まだ・・・治ってなかったのね。ごめんなさい。
つい、もう治ったのかと思ってしまって・・・。」
「す、すすすすまないっ。少しはマシになったかと
も思ったんだが・・・。」
反動で危うくルークを背負ったまま倒れそうににな
ったガイ。
体制を立て直し、情けない、と苦笑いを浮かべた。
皆がアルビオールに乗り、それを確かめてノエルは
最後にコックピットへ向かう。
(よし。次はベルケンドね。ルークさんの容体も気
になるし、なるべく早く着かなきゃ。)
頭の中でしっかりと航路を確認し、うん、と頷いた。
顔を上げ、前を見据えると西日が眩しい。
強く照り続ける太陽は、青い空をより青く見せてい
て壮大な景色となっている。
(わぁ・・・キレイ。まるで新しい旅立ちの日みたい。
大丈夫。こんな素晴らしい空の日に、これ以上嫌な
事が起こる訳ないもの。)
深い根拠など何もないが、その見事なまでの陽の光は
不安をかき消してくれた。
この景色を見た者全てに同じ思いを与えただろう。
ノエルは、慣れた手つきで装置を起動させ
力強く操縦菅を握った。
-アトガキ-
全員合流〜!!無事(ぇ)に皆が揃うことが
出来て良かったです。
しかし、あまり人数が居ると、誰かを私が忘れてしまいそうで・・・。
今回最後にノエルについて少し書いてみました。
ゲーム本編ではあまりノエルの感情は描写されていませんからね。
これからも彼女の思いなども書いてみようと思います。
さぁ、ルークはどうなってしまうのか!?
トゥナは一体何者!?
そして、ピオニー陛下出番が微妙!?(すんませ!)
では、次回もお楽しみに!
