TALES OF THE ABYSS -8番目の譜歌-5
「ルーク?見ていないですけれど・・・ティアはルークと共に出たのではなかったの?」
ティア達はバチカルに到着し、それから皆それぞれに分かれ、
ルークを見ていないか聞き込みをしている最中だった。
城や広場など至るところを回ったのだが、ルークは何処にも姿を見せていない
ようだ。そして結果はここ――ファブレ公爵邸でも変わらないと確信づける返事が
帰ってきた。
「い、いえ・・・、途中で別れたのですが、はぐれてしまったようなので
ここに戻っているかと思いまして・・・。」
「・・・よかった。では何か危険な事に関与している訳ではないのね。安心したわ。」
「あ・・・はい・・・。」
やはり嘘をつくのは辛いものだ。
これまでに抱いた事のない感情ではないが、ティアは改めてそう感じた。
ルークの母シュザンヌは元々身体が弱く、先の旅でも、突然ルークが
居なくなってしまったため病に伏せったのであった。
それを危惧して真実を伝えることをしなかったのである。
伝えるか否かは皆で話し合い、迷いの末、真実は伝えないと決めたのだ。
今回は突然消えた訳ではないのだし、命の危険はないと考えたからだ。
もしトゥナがルークの命を奪うつもりなら、あのような回りくどいやり方はしない。
何か別の目的があるように見えた。
「そっちはどうだったぁ〜?」
集合場所にしていた広場に行けばアニスにそう問われ、答えるのだが何処でも
結果は同じのようだ。
「誰もルークを見ていないみたいですわ。」
「こっちも同じよ。」
「バチカルには居ないってことだな・・・。どうする?グランコクマやバチカルに
居ないとなると、検討がつかないな。」
譜歌を歌った少女、トゥナが譜石の場所を知っていた事から、
ダアトの者である可能性が高いと考え、取りあえずは首都を回ってみたのだが、
検討違いだったようだ。
「もしかして何処かの道を歩いてるかも知れないよ。アルビオールで低空飛行をして
探してみる、とか?」
「それがいいかもしれないな。よし、ノエルに頼んでそうしてもらおう。」
生い茂る樹々。森の出口は一向に見つからない。洞窟を出てようやく光を浴びたと思
ったのもつかの間、今度は自然のアーチが天を覆い、光を遮ってしまっている。
いい加減明るいところに出たいと、そう思い始めた時だ。
『… … … …。』
何処か遠くから話し声が聞こえる。複数の男の声だ。
(人の声!?探してここ何処か聴かねぇとっ。)
そう思い走り出すと同時にトゥナも走り出した。どうやら同じことを考えているようだ。
今居る場所が解らなければお互いどうしようもないのである。
声のする方へ少し走ると三人の姿が見えた。
三人共が青色の軍服を着ている。あれは――マルクト兵のようだ。
彼らの近くに踏み出し、ルークは我先にと話しかけた。
「すいませんっ。ここってテオルの森なんですか!?」
すると兵士達は一瞬で顔色を変え、
こちらに向かって怒鳴るように言った。
「お前達か、正体不明の超振動を起こしたのは!!」
「「!?」」
「直ちに連行する!抵抗は考えないことだな。グランコクマ軍本部に通達!
今からそちらに容疑者2名を移送する。」
「はっ。」
戦争中ではないというのにこの警戒様。
さすがは要塞都市と化すマルクト帝国首都とでも言ったところだろうか。
「ちょっ!私達が何したって言うの?」
「くそ、こんなことしてる場合じゃ――」
(・・・まてよ・・・。軍本部に行けばジェイドが居る。
なんとかなるかも知れない・・・。)
「容疑者2名の移送完了致しました。」
「2名の身柄はこちらで確保する。ご苦労、下がりなさい。」
そう言い放った軍服を纏った長身の男は、中途半端に長い髪にメガネ、そして鋭い
赤い瞳――そう、
(ジェイド!!)
「2人をそれぞれ別の牢へ収容せよ。私が事情を聴く。」
「了解しました!」
ルークとトゥナは兵士に従い、歩いていく。
ルークはひとまず安心したが、気がかりなこともあった。トゥナはルークのことを
知っていた。もしこちらのことを調べているとしたら、ジェイドのことも知って
いる可能性がある。だとしたら、何らかの対処法を考えてくるだろう。
暫く歩くと、後ろからジェイドが兵士の1人に話しかけた。
「この赤髪の男は以前にも同じ罪を侵しています。彼は特別に私の方で預かります。」
「はぁ!?」
ジェイドが自分のためにそう言ってくれたのはわかっているのだが、
いつも何を考えているかわからない上にあまりにも真剣な顔つきで言われたため、
ついそう言ってしまった。
(・・・つ、つい反応しちまった・・・・・・ん?まてよ。こういう時に大人しく
してると反対に怪しまれちゃうのかも知れないな。トゥナに悟られたらマズイもんな。
・・・せーのっ)
「フ、フザケんな!そんなこと知るかってんだよ!放せぇってーの!!」
「おい、黙って歩け!」
周りから見ればかなり怪しかったかもしれない。なにしろ、口ではこう言ったものの
体は兵士に従い歩いたままだ。普通反抗する時は全身を使うものだと、ルークは
言った後になって気付いた。
「おやおや、口先だけですか。あなたみたいな人を臆病者と言うのでしょうねぇ。」
フォローなのかそれとも嫌味だったのか・・・
「さてルーク。何があったか話してくれますか?」
ジェイドの部屋に着くなり落ち着く暇もなくそう問われた。
やっと安心出来たのだから、もう少しゆっくりしたかったが、
そうも言ってられないだろう。
「やっぱりティア達には会ってんだな。」
「ええ。午前にですが。次は取りあえずバチカルへ行くと言っていましたよ。
ガイもティア達と行きました。」
「くっそ・・・。入れ違いになったのか。」
「過ぎたことを悔んでも仕方がありません。ルーク、彼女について話して下さい。
彼女は譜歌を使えると聞きました。今後のためにも何か対策を考えた方が良い
でしょう。」
「ああ、わかった。」
譜歌といってもユリアの譜歌だ。普通のものと比べ物にはならないくらいの威力を
持っている。
勿論ティアも譜歌を使うことが出来るが、それはティアがユリアの子孫であり、
永きにわたり伝えられてきたからである。
普通ではユリアの譜歌を使えるなど考えられないことだ。
「あいつの名前はトゥナ。俺達の邪魔してきて・・・・・・。そうだ!ジェイド、
第八音素のことは?」
「知っていますよ。数日前にアニスからそれについてを綴った手紙を頂きました。
“ルークとティアにも知らせに行く”と書いてありましたから、アニスがバチカルに
向かう前に書いたのでしょう。大事には至らないよう、第八音素について極秘で
調べて欲しいとありました。私は科学者ではないのですがねぇ。」
やはりアニスはしっかりしている。予想も出来ない事態にも素早く対応している。
ルークは“やっぱ俺と違って・・・”とつい自己嫌悪に陥ってしまうのだった。
「じゃあ話も早いな。トゥナは第七音律士でそんでもって、第八音律士なんだ。
なんで譜歌を使えるかとかは解んねぇんだけど、トゥナは、ティアの知らない
譜歌――第八譜歌を使えるんだ。」
「!!第八譜歌・・・ですか。」
ジェイドの顔に僅かに動揺が伺える。さすがに驚いたのだろう。
「彼女の目的は何ですか?あなたに何かさせようとしましたか?」
「トゥナは俺の超振動を使っ――」
その時だった。譜歌が、聞こえてきたのは・・・
- レィ ヴァ ネゥ クロア トゥエ レィ レィ-
「トゥナだ!え・・・でもこれは第七譜歌・・・だよな!?」
「ええ・・・。」
そして、響き渡る旋律は、続いていく。
- クロア リョ クロア ネゥ トゥエ
レィ クロア リョ ズェ レィ ヴァ -
「第六譜歌・・・!ジェイド、これ一体なんなんだ!?大譜歌みたいに、
ひとつじゃ何も起きない・・・!」
「落ち着いて下さいルーク!警戒だけは強めて下さい。何が来るかわかりません。」
- ヴァ ネゥ ヴァ レィ ヴァ ネゥ ヴァ ズェ レィ -
次に聞こえたのは第六譜歌。
「これは・・・。大譜歌を逆に・・・・・・?」
- リョ レィ クロア リョ ズェ レィ ヴァ ズェ レィ -
「逆の大譜歌!?・・・そうだ、最初が第七で、次が第六・・・。」
そう、第七譜歌、第六譜歌、第五譜歌、第四譜歌と、逆に歌っているのだ。
何が起きるかわからない、緊張と不安がはしる。
- ヴァ レィ ズェ トゥエ ネゥ トゥエ リョ トゥエ クロア -
第三譜歌。
まるで死の宣告のように聞こえる歌を、聴くことしか出来ず、ただただ鼓動を早まらせる二人。
あれほど隣で聴いていた美しい歌を、こんな気持ちで聞こうとは思うはずもなかった。
- クロア リョ ズェ トゥエ リョ レィ ネゥ リョ ズェ -
第二譜歌。
第一まで歌い終えたら何かが起こる。たったそれだけの事実では、
この響き渡る譜歌に恐怖さえ覚えた。
何も出来ないまま、残すは第一譜歌のみとなった。
-アトガキ-
ようやくルークとジェイドが合流出来ました。こっちとしても、
アビスキャラとオリジナルキャラが1対1というのは動かしにくいので、
ちょっと一息つけました〜。(´ー`)
最近は登校中などに携帯で書いてパソコンに送っているので
前より更新早くなるといいなぁ、と思いながら頑張ってます!!
まだまだ書きたいシーンがたくさんあるので、皆さんを待たせないためにも頑張らないと!
乞うご期待!
