TALES OF THE ABYSS -8番目の譜歌うた-5



 


薄暗い洞窟をルークは歩いていた。只でさえ出口の見えない迷路のような道を歩くのは御免なのに、今は
得体の知れない者――トゥナと歩いているのだ。
段々と苛々してしまう一方不安もあった。こんなことを言ってはまたジェイドに馬鹿にされそうな気がし
たが、今はそれどころではない。身を守る剣を持っていない。否、正確には奪われている。
持っていた剣が“ローレライの鍵”のように特別な物という訳ではなかったが、在る無いは大きな違いで
ある。
(気付かねーうちに剣に頼ってたんだなぁ・・・俺もシンクみたいに素手で戦っ・・・って俺何考えてん
 だ?)
そんなことを考えて居ると目の前が急に明るくなった。出口だ。
「やっと出口ね。」
「全くだ!あーあんな暗いとこは もうウンザリだっ!」
まるで何日間も浴びていないような明るい光の中に広がった景色は森、だった。今立っている所は光が差
し込んでいるようだったが、周りを見てみると光も差し込まない程の樹々で空間が埋め尽されていた。
(ここ何処なんだ?森っつってもたくさんあるしなぁ。・・・よし、とにかくこいつから離れることから
 考えないとだな。)
樹々が風に揺れ、ざわざわと音を立てる。
こんな状況に置かれながらも懐かしい、とルークは思う。
突然の超振動。何処なのかも解らない土地。全く知らない少女との旅の始まり。しかし大きく違うのは
「自分」だった。
初めてティアと会った頃の自分は何も知らない、何もしようとしないワガママな人間だった。しかし今は
少なくとも以前より世界を知り、何かをしようと思えるようになった。
自分でなんとかしなければと、さっきよりもしっかりとした足取りでルークは歩き出した。








普段見ることのない上空からの景色はいつ眺めても感動の一言だった。

ティア達はシェリダンでアルビオールを借り、ノエルの操縦の元、マルクトの首都グランコクマに向かっ
ていた。
「やっぱりガイか大佐どっちかにはグランコクマに残ってもらわないとだね。」
「何故ですの?」
「ルークがやっとの思いでグランコクマに辿り着いたぁって時に、誰も居ないんじゃ・・・ちょっと悲し
 いでしょ?」
成程、とナタリアは頷いた。どちらが残るかはほとんど解りきったことであったが。
ガイはルークが心配だと言ってついてくるだろう。ジェイドは仕事がある訳だし、ははは、といつものよ
うに涼しく笑い飛ばすことだろう。
「皆さん、グランコクマが見えました。」
ノエルの声と共にアルビオールは降下を始め静かに着陸した。
「ここも久しぶりね。フローリアンは来たことは?」
「1回だけならあるよ。外に出してくれること滅多になかったけどアニスの大事な会議がある時に来たの。
 でも 宮殿内は会議出席者以外入場禁止だったから・・・。」
「そう・・・。」
それを聴いてティアは随分前にアニスから送られて来た手紙の内容を思い出した。

“フローリアンはどうしても前導士――イオンと似すぎているため、教団内の者が外出を良く思っていない”と。

フローリアンは見聞を広めたい一心だが、レプリカで在るがために風当たりもあまり良いとは言えないのだ。
フローリアンを思うと宮殿にも寄って行きたいところだが、その予定はなかった。ガイの家とマルクト軍基地に
より、その次は直ぐにバチカルへ行くつもりなのだ。
「フローリアン、今度ここに来た時は宮殿も行こっか♪お願いしたら陛下も会ってくれると思うよ。」
大変友好的なピオニー9世は願い出ればいつでも会ってくれるのだった。2年前世界を救った英雄ともなれば尚更だ。
「え!ピオニー陛下にお会い出来るの!?そんな、僕ただの導士守護役――・・・」
「ふふふ・・・そこはアニスちゃんの 権力を生かせば・・・」
「まぁアニス!職権乱用はいけなくてよ!」
「ま、ま〜時間もない事だしぃ、早く行こ〜っ!ほら、ガイの家見えたよっ。」


ガイは全てが終わった後、やはり自分が生まれた国で暮らしたいとの事で、グランコクマに住居を持ったのだ。 
無論既にホドは存在しないので、その話を聴いたピオニーがグランコクマに住めばいい、と薦めてくれたのだった。
「いつ見ても、大きな家ね・・・。」
目の前にはファブレ公爵邸より少し小さいくらいの豪邸が建っている。グランコクマの中でも目立つぐらいだ。
「そうでしょうか?特別大きいとは思いませんわよ?」
「そりゃアンタ自分の城と比べちゃ・・・。いつかのルークと同じ事言ってんじゃん。」
そう、ガイはああ見えても伯爵だ。しかし、ほとんどよそ者のようなガイがこのような豪邸を建てることが出来たのも、
ピオニーのお陰だった。
「アニス、お話してないで!」
フローリアンが焦って玄関口に立っているので、アニスは言う。
 「そだね。は・や・くガイラルディア様を呼んじゃいますか☆」
そう意地悪そうな顔をするとアニスは呼び出しのノックをし、スゥっと息を吸い、多少声を低くして言った。

「ガイラルディア様〜、借金の取り立てに参りました〜!!開けろコノヤロ〜!!」 
       
言い終わって少しすると、階段を降りるような足音が聞こえ、やがて扉が開いた。
「久しぶりだな。どうしたんだ?大勢集まったりなんかして。」
アニスの予想に反して、普段の口調で話すガイ。当然だとは思うが、声の主がアニスだとわかったのだろう。会う
のは大分久しぶりだった。ルークは手紙を出し合っていたが、お互い忙しく、あまり会っていないのだ。
「えぇ〜、なぁんで騙されないワケ!?おもしろくなぁい!」
さっきの呼び声でガイを騙す気満々だったのだろうか、アニスは一人悔しがっている。
「あんなに声が子供の取り立て人がいるわけないだろ?・・・あれ?そういえばティア、君はルークと一緒じゃな
 かったのかい?」
ほのぼのとした再会の雰囲気は一瞬で消え、剣呑な雰囲気が漂う。ティアはダアトでの出来事を、ガイに話し始めた。


事情を理解したガイは、しかし信じられないとう表情を見せた。
「まさかルークがな・・・まぁでもアイツもしっかりしてるし、心配することもないんじゃないのか?」
ガイはあまり焦っていないように見えた。人一倍ルークを信じている証なのかも知れない。
ティアはその表情が皆の不安を和らげてくれたように感じた。
「しかし、彼女がユリアの譜歌を使えるのが気になりますの。」
「確かにな。ユリアの譜歌は解読が難しいんだろ?…この事、ジェイドには?」 
「いえ、まだよ。ガイに話したら大佐にもお話を、と思ってるところよ。」
「そうか、じゃあ軍の施設に行こうか。勿論俺はついていくけどいいかな?」
「ええ、行きましょう。」


「はははは、何年経ってもルークはルークですね〜。しかし・・・別に連絡の必要はなかったのではないのですか?
 それにしてもフローリアン、賢そうな顔になりましたねぇ。」
ジェイドに事情を話すなり予想通りの答えが返ってきた。
淡々とした口調でこう話されては、頭がどうにかなりそうだ。
「・・・大佐ぁ、一辺にそんなに話さないでくれないかな!頭が疲れちゃうでしょ!」
「いえいえ、アニスには言われたくありませんね。」 
「ぶー。アニスちゃん傷ついちゃいま――「あの、えと・・・ジェイド大佐、ユリアの譜歌は解読が難しいんです 
 よね?旋律だけじゃなくて象徴も理解しなくちゃならなくて・・・」 
「そうですね。多少気になるところもありますがねぇ・・・。」 
アニスはつい感嘆してしまった。生まれてたった数年のフローリアンが、あのジェイドと渡り合っているからだ。

(もしかしてフローリアン・・・大佐以上の天才になっちゃったりして!?)

「大佐、もしルークがここに来たらアルビオールに連絡をくれませんか?」
「仕方がありませんね。しかしティア、初めは二人が破局してしまったからルークが居ないのだと思いましたよ。」
「ち、違います!////」
 頬を赤らめて完全否定するティア。そこに、待っていましたと言わんばかりに、アニスが口を挟む。
「そぉだよね〜ティアはルークとスッゴク上手くいってるんだもんね〜?」
「・・・何でそんな捉え方するの・・・。・・・もう。」 
以前にもこのような会話があった気がするのは気のせいだろうか。
(別にそういう訳じゃないのに・・・。仲間が居なくなったら普通心配するじゃない・・・。)
「皆さん、急がなくてもいいのですか?ルークを心配していたのではなかったのですか?」
そんなジェイドの声に、皆ようやくゆっくりしてしまっていた事に気がついた。久しぶりの再会や和んだ空気に、
つい今の状況を忘れていたのだ。
「い、いけませんわっ!私としたことがつい・・・っ!」
「じゃ、大佐っ。ルークのコトお願いねっ!フローリアン、行くよー!」
突然にまた慌しくなり、走り出す一行。軍の施設を出て道なりに進めば、港に止めてあるアルビオールが目に入る。
走ってくるティア達に気がついたノエルは、コックピットに直ぐに戻って発信の準備をしてくれた。
アルビオールは皆を乗せ、文句のつけようのない青空へと飛び立っていった。










-アトガキ-
ジェイドは行動をともにしていませんが、ちゃんと出てきますよ♪
ゲーム中のわずかなシーンからフローリアンを喋らせるのは難しい
ですね〜。
まだ少しティアサイドが続きますが、・・・どうでしょう。次の「6」
でルークサイドが出るかは、管理人にもわかりません。(オイ
皆さんが楽しんでいただける小説になるようがんばります!!

(管理人の失敗1)
あ・・・っ!!ミュウのこと忘れてた・・・(滝汗)