TALES OF THE ABYSS -8番目の譜歌うた-4




「ねぇ、アニス。」
「なぁに?フローリアン。」
「3人とも、・・・大丈夫かなぁ・・・。だって、あれはユリアの譜歌でしょ?解読も困難で、普通の譜歌に
 比べて威力もあるんだよね・・・。」
混乱していたフローリアンと共に部屋に戻ったアニスは、横で自分に話しかける翠の瞳を見ながら、安堵する。
3人のことを心配してはいるものの、だいぶん落ち着いたようだった。
本当にハラハラした。今でも、一番落ち着いていないのはアニスかもしれないほどに。
「だぁかぁら、大丈夫だよ。ナタリアはしっかりしてるし、ティアも危ないことには首突っ込まないしっ。ル
 ークだってお坊ちゃまだけど――」

     バタンッ

丁度その先を言いかけたところに勢いよく扉が開かれる音がした。
音と共に駆け込んできたのは、ティアと、ナタリア。
「っアニス!!」
「ぅわぁ!!ティア、ナタリア。どしたの?そんな急いで・・・ってルークは!?」
後ろでフローリアンの声が震えるのが聞こえる。そんなに悪いほうに考えないで、といいたいところだったが、
嫌な予感がしてそれを言うのを止めた。
「・・・ルークは、・・・・・・譜歌を歌った人物に、さらわれたの・・・。」

「ええええっ!?さ、さらわれたぁ!?」

一拍置いて大声・・・。フローリアンが怯えるのはわかっていたが、つい大声で叫んでしまった。それほどに
驚いた。まさか、ルークが・・・、と。
「正確には、彼女の音素とルークの音素が超振動を起こし、何処かへ消えてしまったのですが、ティアが言う
 には、彼女がそれを故意に起こしたように見えたのです。」
「はぁぁ?ルークって、お姫様か王子様かどっちかってゆーと、絶対に王子様の方だと思ってたのにぃー!!」
「ア、アニス、そうじゃなくてルークを助けなきゃ・・・っ!」
「うん、わかってる。でも焦っても仕方ないからね。」
ルークを信頼しているのかお気楽なのか、アニスは焦っている素振りを見せない。それとも教団を立て直すと
いう過程で、周りに不安を見せまいと身につけた術なのかもしれない。
「とりあえず、シェリダンでアルビオールを借りるべきだと思いますわ。」
「そうね・・・。またノエルには世話になるけど、船での移動は時間がかかり過ぎるわ。」

先の長旅でたくさんお世話になったアルビオール。将来はもっと日常的に使えることを目指しているという話
だが、なにしろ元ある飛行譜石を研究し、新しい譜石を作らない事にはどうしようもならないため、上手くは
いっていないらしい。

「ガイとジェイド大佐は呼ばないの?」
「大佐は忙しいかもしんないし、わかんないけどガイは呼んだ方が良くない?でもとりあえずアルビオールが
 先かな。今はダアトから直接船でシェリダンに行けるし。まぁ、それまで女ばぁっかになっちゃうけどぉ〜。」
「今から出ましょう。もう夜だけど、ゆっくりはしてられないもの。」
ルークと少女が姿を消してからそう時間は経っていないものの、彼女の強さを思えば少しの時間も惜しいとい
うものだ。

「んじゃあ、フローリアンは―――「僕も行く!!」
待っていて、とそう言いかけたアニスの声はフローリアンに遮られた。
「な、なぁに言ってんの!危ないからダメに決まってんでしょぉ!!」
絶対に来てほしくない・・・だからこそ強く言い放つ。外は魔物が出て危険な上に、強い敵と戦うことになる。
もうあんな怖い思いはして欲しくないと願うアニスとは裏腹にフローリアンは行きたい、と望む。
「僕は誰かの役に立ちたい。もっといろんな事を知りたい。・・・僕は戦うことは出来ないけど、・・・迷惑、
 かけないから・・・っ」
「ダメ!怪我、しちゃうんだよ!さっきだって心配で・・・心配で・・・」
「導師の外出に導師守護役の一人ぐらいつけるのは当然でしょ?」
「・・・・・・。」
まだこの世に生を受けて数年しか経っていないフローリアンはたくさんの事を知りたがった。だからやりたい
ことは出来るだけやらせてあげたい。しかし危険な目にはもう会わせたくない。そのふたつの思いが頭の中で
交差する。


数秒の間をあけて、決断を下す。


「・・・よし!許す!そのかわり戦うときは後ろに下がっててね!アタシがちゃぁんと守るから!」
「うんっ!!」
フローリアンの満面の笑顔を見ながら“絶対守る”と自分にも誓う。
(守らなくちゃ・・・絶対・・・今度こそ・・・っ!)

「フフッ、主従逆転ですわね。」
「ぶーぶー!ナタリアまで大佐みたいなコト言うーー!」


旅が始まるのか、とそうティアは思う。そういえばあの長い旅の始まりは自分とルークの徴振動から始まった。
ルークと彼女の徴振動・・・

また、長い旅が 始まる――













――真っ暗な闇――
ここは何処だろうか。何故暗いのだろうか。自分は目を閉じているのだろうか?
(確かあの譜石盗んだヤツと徴振動が起きて・・・・・・・!!)
「ここは!!」
自分は目を開けているが、いまだに見える景色は暗闇のみだった。声が響いていて、冷たい風が少し吹いている。
洞窟かどこかだろうか・・・。あの少女は今何処に・・・?
「やっと起きたのね。」
「うぉあぁ!・・・おまえっ!!」
横からいきなり少女の声がし、驚いて反射的に一歩後ろに下がった。
「ここ、どこだよ!おまえは一体・・・!?」
剣を抜こうと手を後ろにまわしたが、掌は空をつかんだ。剣が、ない。

「なっ剣がない・・・!」

「さすがにそれを振り回されると近距離でこっちが不利になるから預からせてもらったの。ところで、聞いてもら
 いたいことがあるの。あなたと徴振動で飛んだのも、一対一で話したかったから。これまでの無礼、悪かったと
 思う。だからどうか、話を聞いて。」
「話ってなんだよ。いきなり譜歌かましてみんなに怪我させといて譜石盗んで・・・。どーせろくなことじゃねぇ
 んだろ。」
皆を傷つけたのは事実であるし言葉ではそう反論するが、やっと暗闇に慣れた目で見える顔は、真剣だった。嘘を
言っているようには、ルークには思えなかった。暗闇でよくわからないが彼女の髪の色、瞳の色はやはりティアと
よく似ていた。顔も、似ているといえば似ているかもしれない。
「で、その話を聞いたら剣を返すか?」
「話を聞いて、協力してくれたら。全て終わったらもちろんあなたを解放するわ。」
「協力するかどうかはわかんないけど、話だけなら聞いてやる。それと、名前ぐらい言えよ。名前もわかんないや
 つと居るのは気持ち悪いからな。」
「名前・・・か。・・・トゥナよ。ちなみにあなたのことは知ってるから自己紹介なんていらないから。じゃあ、
 ここがどこかもわからないし、歩いて出口を探しながら話すわ。」
自己紹介なんてするか、と内心腹立てるが無駄口をたたくのは止めておいた。
何を言い出すかはわからなかったが、どちらにしろ最後まで聞く気はなかった。どうにか隙を見て逃げ出し、皆と
何処かで合流するつもりだった。

しかし、彼女の口から出た言葉は、驚くべきことだった。

「この世界――オールドラントの存続がかかっているわ。」
「!!」
信じていいのだろうか。それとも疑うべきなのか。半信半疑で話に耳を傾ける。
「第八音素が発現したのは知っているわね。第七音素発現の突然変異。それに続いての第八音素の発現。世界の音
 素は確実にバランスを崩しているの。第七、第八音素がきたす、他の音素への影響力は半端じゃない。そのふた
 つの音素の発現で、他の第一から第六までの音素は消えかかってる。時間が経てば、ふたつの音素以外の音素は、
 完全に消えるわ。」
「音素が消える!?そんなことってあるのか!?(あれ・・・そういや確か・・・フローリアンが第八譜石から預言
 を詠んだときにもそんなことを・・・)」
「現に六つの音素は減少している。事実なのよ。」
現在、六つの音素を使用しているものや術はたくさんある。むしろオールドラントの歴史そのものだ。それが無く
なれば、上手く予想は出来ないが世界はおそらく荒廃するだろう。
「どうにかする方法は、ないのか?」
「だから、そのためにあなたに話をしているの。」

辺りの明るさが少しずつ増してきている。少しずつ出口に近づいているのだろうか。ここは魔物も出ない。何処な
のかは気になる一方だったが、今はそれよりも話に集中していた。
トゥナの話の内容は、信じていいだろうと判断する。二つの音素の突然発生。なんらかの障害をもたらしてもおか
しくはなかった。

「で、どうすればいいんだ?」
「わかってると思うけど、あなたはひとりで徴振動を起こすことが出来る唯一の人間。だから、その徴振動を使う
 のよ。そして、あなたは第八音律士でもある。第八音素による徴振動。それによって世界の音素を取り戻すの。」
“徴振動”という言葉を聞いて、あのアッシュの声を思い出す。生き返らせる力。起きる間際に聞いたアッシュの声。
何か関係があるのかもしれない。
「オレが第八音律士ぃ!?ってよりも、第八音素は人を生き返らせる能力じゃ、なかったのか?」
アニスがバチカルに出向いて伝えてくれた事実を思い出す。第八音素は人を生き返らせる力があると。
「確かに、第八音素を使って生き返らせることも出来るけど。その大元となっているのは、“時”の力よ。その人
 の時を、生きていた時に戻すの。」
「時・・・の力・・・。」
「そう。私は初め、徴振動を起こし世界の音素を取り戻すために、あなたの被験者――アッシュに協力してもらおう
 したんだけど、失敗してしまって・・・。」
「アッシュを生き返らせたのか!?」
アッシュに協力を願い出る。つまりそれはアッシュを生き返らせるということだ。トゥナがそのために第八音素を
使って生き返らせたのなら、あの声にも合点がいく。
「今失敗したっていったでしょ?だからあなたにお願いしてるの。」

(失敗・・・?じゃああのアッシュの声はなんで・・・。偶然なんかじゃない・・・?)

「どうしたの?」
「いや、・・・なんでもないっ。」
もしトゥナが蘇生に失敗していたのなら、アッシュの声が聞こえるなどということはないはずだった。何かがおか
しいと思ったが、もしトゥナがわざわざそのことを偽っているのだとしたら、声が聞こえたということは言わない
方がいいだろう。
「とにかく、そんなわけだからあなたに協力してって言っているのよ。協力してくれるわね?」
「・・・あ、ああ・・・。」
そう、返事をしながらも抱いている不信感はないがしろに出来ない。

(何かおかしい・・・。しかも強制しすぎだ。・・・やっぱりみんなと合流するのが先決、だな。)










-アトガキ-
たくさん話が動きました。時の力ですが・・・きっと考えるとたくさん
矛盾点が出てくると思いますがどうかお見逃しを!(汗)
どうしてもキャラの台詞が多くなって説明などが減ってしまい、
苦労しています。(←自分が悪い)
フローリアンが一緒に行くことになりましたが、これはもろ
管理人の「一緒に旅をして欲しかった」という願望の表れです。
トゥナのプロフィールをそのうちNovelMenuのところに更新する予定です。
見た目とかも一応考えてありますので〜。