TALES OF THE ABYSS -8番目の譜歌-3
同時だった。謎の声の持ち主が譜歌を歌い終わるのと、ナタリアの“バリアー”が掛けられたのは。このタイ
ミングではティアの“フォースフィールド”は間に合わない。
「うあぁっ!」
「きゃあぁぁ!!」
叫び声が響く。“ジャッジメント”の前では逃げ場は無いに等しい。それでも皆、そこまで重い傷ではないだ
ろう。それは経験でわかっている。しかし、一瞬よぎる不安。今はこれまでの旅とは違う点がある。それは、
共にいるメンバーである。今はフローリアンが一緒なのだ。
「フローリアンっ!!!」
アニスの悲痛な声が響く。フローリアンはルークやティアたちなどと違い、旅をしたわけでもなければ、修行
をつんだわけでもない。つまり、全くといっても過言ではないほど抵抗力はない。
アニスは直ぐに立ち上がると、たった一人その部屋にうずくまっている者――フローリアンの元へと駆けつけ
た。
それと同時に影がアニスの目の前をよぎり、台の上にあった譜石を奪い、上へ上がる階段へと走っていった。
おそらくこの譜歌を唱えた本人だろうが、アニスは今それどころではなかった。すぐさまルークが傷ついた体
のままその者を追った。
「う・・ぅう・・・あ、あに・・・す・・・?痛い、よ・・・。何・・が・・」
「フローリアン、大丈夫よ!!今治癒術で治してくれるからっ!」
『生命の光よ。ここに来たる・・・ハートレスサークル!!』
ティアの唱えた術によりその場にいる皆の傷が癒される。フローリアンも無事のようだ。“ジャッジメント”
のかかる一瞬前にナタリアがフローリアンにかけた“バリアー”のおかげだろう。ナタリアの咄嗟の判断によ
り、フローリアンは救われたのだった。
「うぅ、・・・アニス、いったい何があったの?今のは・・・」
するとアニスは、フローリアンに飛びついた。
「よかった、フローリアンが無事で・・・。ごめんね、もうこんなことに巻き込まないから。」
「アニス、フローリアン、私たちはルークを追います。術をかけた者は譜石を持ち去りましたから、取り返
さなければなりませんし、ルークが心配ですわ。二人はどうしますの?」
ルークといえど、さすがに譜歌を唱えた謎の人物を追うということは心配だった。それに加えて、万全では
ないことから、ティアにも不安な表情が滲み出ていた。
「ごめん、フローリアンが心配だから一緒にあたしの部屋に戻ってるよ。今一人にしとけないもんね。」
「わかったわ。ちゃんと取り返してくるから。アニスはフローリアンの傍に居てあげて。」
傷は治ったとはいえ心配だった。一般人は術など喰らったことなどないだろうし、覚悟もしていない不意打
ちだった。心に傷が残ってしまうのではないのか、と気が気ではない。
「言われなくても、フローリアンはあたしが守るんだからっ。みんな、気をつけてね。」
「ええ。」
アニスの言葉に短く返事をすると、二人はルークの元へと急いだ。相手は逃げているわけであるから、ゆっ
くりしては居られなかった。
「フローリアン、・・・ごめんね。・・・部屋に戻ろっか、ね?」
「うん・・・でも、アニス。ティア達と一緒に行かなくていいの?」
するとアニスは、笑顔で答える。
「大丈夫だよ。みぃんな強いんだからっ。」
まるで自分のことのように誇り高く思えた。一緒に苦難を乗り越えてきた大切で、信頼している大好きな
“仲間”だから・・・。
「ルークは何処に居るのかしら・・・。」
ティアとナタリアはルークを追って、ダアトのもと来た道を走っていた。しかし、未だルークと謎の人物は
見当たらなかった。
「ええ、辺りには居なかったようですし、街の外かもしれませんわね。」
「そうね・・・。おそらく譜石を盗んだ犯人はダアト港から船で他の大陸へ逃げ込むつもりだわ。――港へ
の道沿いに行ってみましょう。」
そう言ってダアトへ続く街道に入ったときだった。少し遠くからルークの声と、それと会話しているように
聞こえる少女の声がした。
「おい、おまえいい加減にその譜石を返せ!!」
「悪いけど、これは返せないの。だから、見逃してくれない?」
ルークと会話をしている者――譜石を盗んだ犯人は、アニスの少し上で18歳くらいに見える髪が肩くらい
まで伸びている少女だった。髪の色は・・・ティアとひどく似ている。しかしレプリカであるとか、そうい
うことはないだろう。なにより年齢が近いようには見えなかった。
「・・・あんまり、力ずくで取り返したくないっ。だから――」
「ルーク!彼女が譜石を・・・?」
「フローリアンは無事ですわ。今はアニスと部屋に戻っています。」
「ティア、ナタリア。よかった、フローリアンは無事か。」
少女は少し困った顔をし、ため息をつく。それでも、状況が悪くなってしまい焦っている様な表情は見せな
い。するとゆっくり口を開いた。
「これは返せないの。それに、時間も惜しいから戦ってでも逃げるから。」
その言葉と共に少女は青色の瞳を閉じた。彼女の足元から光が溢れてきた。この光は、ティアが譜歌を詠唱
している時と同じ光だった。
- リョ ズェ レイ ヴァ レイ ネゥ ヴァ トゥエ リョ -
「譜歌!?でもこれは・・・」
「・・・私の、知らない譜歌!?ユリアは他にも譜歌を残したの・・・!?」
彼女の口から聞こえた歌は、ティアでも知らないものだった。それもそのはず、これまでユリアが残した譜歌
は第1から第7の譜歌と言われていたし、ヴァンの残した本の隠しページにもそんなことは記述されていなか
った。
「っくそ!」
すぐにルークが譜歌を止めようと走るが、ナタリアの言葉に止められた。
「ルーク!あの譜歌がどんな能力なのか、彼女がどんな力を持っているのか未知数なのですよ!迂闊に近づい
ては危険ですわ!」
ナタリアの言葉を理解し、一歩引くとそのとき譜歌の詠唱が終わった。何が起こるかと構えていたが意外にも
何も起こらない。攻撃系かとの予想もしていたが、どうやら違うようだ。一瞬、術者の体の周りが光に包まれ
たように見えた。
「どんな能力かはわかんねぇけど、行くぜ!ナタリア、援護を頼む!ティアは治癒術の準備をっ。」
「「ええ。」」
ルークが走り出すのと同時にナタリアは弓を構え、ティアはいつ怪我を負ってもいいように“ファーストエイド”
の詠唱を始める。譜歌をかけ終った少女は、腰の脇に装備している2本の短剣を引き抜き、ルークを迎え撃つ。
「ていっ!はっ!『通牙連破斬!!』」
ルークがはなった奥義は虚しくも避けられてしまう。ナタリアが放つ矢も、短刀で軽く弾かれてしまう。相当戦
いなれている――そう、ルークは思った。攻撃こそ仕掛けては来ないが、全ての攻撃を避けている。ヴァンをも
倒した仲間の前衛を勤めたルークの攻撃を全てかわすなど、普通考えられることではなかった。
次に仕掛けた奥義も避けると、彼女は一歩引き詠唱を始める。直ぐに詠唱を止めるべく走り出したが、詠唱の終
わるほうが速かった。
『力よっ炸裂せよ!エナジーブラスト!』
術自体は初級譜術であったし、さほどではなかった。しかし、その攻撃でルークがひるんだ間に次の詠唱を始める。
“しまった・・・っ”そう、ティアは思った。
今の攻撃で傷ついたルークを癒すため、詠唱を終わり待機していた“ファーストエイド”を使ってしまったからだ
った。怪我をした仲間を回復するのは普通だが、これでは次の術への対応が遅れてしまう。そして、もうひとつ気
になる事があった。今の術は、普通の“エナジーブラスト”よりも、あきらかに破壊力があるように思えたからだ。
『電撃の剣よ・・・いけ!サンダーブレード!!』
詠唱のスピードも速かった。詠唱が終わるまでに身構えることしか出来ないほどに。
「っくぅ・・・!」
「きゃあっ!」
術者自身に一番近いであろう自分に攻撃が来るだろうと思っていたルークは、後ろから聞こえた叫び声に驚いた。術
は後衛をつとめていた二人に命中したようだった。すると心配する間も無く足音が聞こえ、2本の短刀がルークを襲
う。
「はぁっ!!」
キィィィィィン
「っく!」
剣で咄嗟にガードした。しかし、その時不思議な感覚に襲われた。この感覚は・・・そう、ティアと初めて会った時
――バチカルで、ティアのナイフと剣を交えたときと同じだった。
「!!こ、これは・・・っ」
「わかるよね?これが何か。」
(あの時と同じだ!――超振動!!)
音律士同士が接触したときに起こる超振動だ。武器を交えた音が響き渡り、視界が真っ白に染まる。
「うあぁっっ!」
「ルークッ!!これは、超振動!?」
「・・・ティ、ティア、ルークは一体何処へ行ってしまったのです!?」
目の前から忽然と姿を消したルークと謎の少女を前に、二人はただただ驚くしかなかった。
「ナタリア、・・・これは超振動といって、二人の音律士が接触したときに起こる現象で何処かわからないところへ
飛ばされてしまうの。気になるわ・・・。さっきの超振動、あの子が意図的に起こしたように見えたわ。とりあえ
ず、アニスに合流しましょう。焦ってもだめよ。」
そう落ち着いたように言い放つティアの顔にも、不安と焦りが見られる。この場を混乱させず、事態をこれ以上悪く
せんとするティアの最善の判断だった。
何処へ行ったかもわからないため、直ぐに探しに行くことも難しい。とりあえずはアニスと合流し、状況を話すこ
とが先決であると判断し、二人はダアトへの道を歩き出す。グランコクマに居るガイとジェイドとの合流や、捜索の
ためのアルビオールを借りることも、その後だ。
「ルークは第七音素を使えるのですわよね。彼女は第七音律士、ということですわよね・・・。」
「ええ、そうね。譜歌を歌っていたからそうだと思うわ。」
「一体、ルークは何処へ行ってしまったのでしょうか・・・」
二人とも、表に出さないようにしていても、不安な気持ちが心に渦巻いてしまう。
それを象徴するように、気がつけばもう日は沈み、辺りは暗闇に包まれかけていた。
-アトガキ-
ホントに文章書く力なくて申し訳ありません〜。視点バラバラですね♪
誤字・脱字ありましたら匿名でも何でも知らせてくださいな。
次回は、いくつかの場面に分かれて進んで行きます。そしてパーティキャラのみんなも
出てくるはずです。謎の少女の秘密も少しずつ明らかになると思います。
楽しみにしてて下さい。
