TALES OF THE ABYSS -8番目の譜歌-2
ダアトは相変わらず巡礼者でにぎわっていた。今では預言は廃止され詠まれてはいないが、未だ自分の未来
を求めてダアトを訪れる人々は絶えなかった。そんな中、ローレライ教団の建て直しに成功したということ
は相当の努力があったのだろう。
巡礼者や教団の者はアニスを見つけるなり深々と礼をする。ルークはそれを見て”そういや、アニスって
導師だったなぁ。”とまるで今まで疑っていたように感心していた。
一緒に歩いているルークとティア、そしてナタリアはいったい誰なのかと訝しげに話し合っている者もい
た。しかし4人はそんな人々を気にすることなく教会に向かって走っていた。
「アニス、フローリアンは何処にいるんだ?」
「導師の部屋だよ。絶対に待ってて!って言っといたからたぶん・・・居るとは思うけど。」
「フローリアンはとても素直ですし、おそらく部屋にいますわ。」
ファブレ公爵家でダアト行きを決めた後、たまたまナタリアと遭遇したところ、自分も連れて行けと言い張
り、共に行動をすることになった。王女としての責務があるからと止めたが、”わが国民だけではなく、世
界中の人々に助力すべきなのです!連れて行って下さいませ!!”と半ば強引に決定された。そしてバチカ
ルから船に乗り、ダアトへ来たのだった。
教会内に入り、アニスの部屋に行くとフローリアンはベッドに座り本を読んでいた。集中しているようだっ
たが、すぐにこちらに気付き声を上げた。
「アニス!おかえり!!ルークとティアとナタリアも、久しぶりだねっ。」
「もぉーー!フローリアン!乙女のベッドに座るなんて常識はずれっっ!」
「久しぶりね、フローリアン。ちゃんと勉強してたの?」
アニスの罵声が飛んだが、フローリアンはえへへと笑っただけだったので、そのまま何気にスルーして話し
掛けるティア。現在フローリアンは17歳なのだが、精神のほうはまだ幼い。周りからみたらアニスやルー
クたちのフローリアンに対する話し方は異様に思えるだろう。
「うん!ここの図書館っていっぱい本あるでしょ?だからそれを読んでるの。前は音素学とオールドラント
の歴史と地理の本読んで・・・えっと他にも瘴気と魔界のことでしょ、太陰学、時晃学、稀象学とそれ
から・・・」
「うっ!ストップ!!止めてくれ・・・わけのわかんねぇ言葉が飛び交ってる・・・。」
このまま延々と難しい言葉が続きそうなので、ルークがストップをかけた。
「すごい難しいところまで勉強していますのね・・・。私も途中からわかりませんでしたわ。」
ルークだけでなく、ナタリアにもわからないようだ。ティアも驚いた顔をしている。フローリアンは何故だ
ろうとでも言うように首をかしげている。
「わかんなくて当然だよ、あたしもマジ意味不明だもん。他の人が言うにはさ、フローリアンが読んでる本
は学者目指す人が読むような本なんだったさ〜。フローリアン最近すっごく本に興味持っちゃって。」
アニスはあきれた様に言い、すこしうれしそうにため息をついた。正直言って初めはフローリアンがどのよ
うに育っていくのかは皆、不安だったのだ。しかしこのぶんでは心配は要らないだろう。
「アニス。・・・約束してたよね?ルークたちを呼んできたら・・・」
フローリアンは真剣な顔でアニスに言う。部屋に居た皆も顔を曇らせる。自身が望んでいるとはいえ、フロ
ーリアンは以前、モースに無理やりに預言を詠まされるという苦い経験をしている。いや、苦いどころでは
ない。今でもその出来事は深い心の傷となっているだろう。それに加えてレプリカであるという条件。預言
を詠むのには相当な負担がかかるであろうことはここに居る全員が知っていることだ。
「・・・ んもう、しょうがないなぁ。フローリアン、アニスちゃんが特別に一回だけ許してあげるっ!ア
ニスちゃんは優しいんだから。」
「!わかったよ、アニス。(・・・アニス・・・ありがとう。ぼくに心配かけないようにって無理してくれて
るんだね)」
「こっちだよ。」
アニスに案内されて向かったのは、教会の地下の一番奥だった。以前、ここにイオンとナタリアが捕まり、
助けに向かったこともあったがそれよりも奥に思えた。長い階段をおり、ひとつの鍵の掛かった扉を開ける
と広い場所に出た。天井はかなり高いようだ。ティアが周りを見渡しながら感嘆の声を漏らした。
「ここの地下にこんな場所があったのね。知らなかったわ。それにしても、本当に広いわね。」
「ああ、こうやって話してると声が響いてるもんな。へぇ〜・・・・」
普通の話し声でさえ声は部屋いっぱいに響いた。
「あたしも最近見つけたの。というより、フローリアンが教会中走り回ってて見つけたとこなんだけどね。
なぁんにも使われてなかったっぽいし、誰にもバレずにモノ置いとくには丁度いいなぁって思ったからさ、
勝手に使ってんの。 ついたよ、ここ。」
見ると、台の上に掌ほどの大きさの石――否、譜石があった。真っ白でとても美しい。
「じゃあアニス、ぼく・・・詠むね。」
フローリアンが譜石に向い、一度深く深呼吸をした。やはり自分の思い出したくない過去と向き合うのは難し
い。アニスもその様子を見て泣きそうな、それでもその感情をなんとか押さえ込もうとしている。過去、イオ
ンが死んだとき、イオンは一人で真っ白な譜石に向い、それを今と同じように後ろから見ていた。その姿と重
ねてしまっているのだろう。
(違う、これはフローリアンだよ・・・イオン様じゃない。・・・フローリアンはフローリアンなんだからっ、
姿なんて重ねちゃダメっ!)
アニスを罪悪感が襲う。わかっているのにそれでも、ついそう思ってしまう。そのとき、
「――アニス、大丈夫だよ。ぼくは前怖い思いしてるけど、前とはぜんぜんちがうもん。ぼくがやるって言っ
たし、みんなやアニスが見ててくれるでしょ?ね?」
「・・・そうだね、フローリアン。あたしがこんなんじゃ、詠むフローリアンが心細くなっちゃうもんねっ。
心配かけてごめん、ありがと。」
フローリアンはにこっと微笑むと、もう一度譜石に向き直った。目の前の譜石が揺れる。自分が震えているの
だろう、と理解した。あの時の記憶がよみがえる。
(大丈夫!アニスが見ててくれる。・・・ぼくだって役に立ちたいっ。・・・大丈夫っ・・・)
「――ND2020新たな音が生誕する
其は世界に混乱を運ぶなり
――ND2021惑星オールドラントは
目に見えぬ流れの中で
無音の世界となりゆくなり――
時は流れ 世界は音を取り戻す
響きゆく“光へと――・・・・・・
そこまで詠み終えたときだった。聴きなれない声――聴きなれた歌が響いた。
-ヴァ ネゥ ヴァ レィ-
「これは、第6譜歌!?いけないっ!これは・・・」
-ヴァ ネゥ ヴァ ズェ-
「“ジャッジメント”よ!!」
「堅き守りよ・・・っ」
- レィ -
『バリアー!!』
