TALES OF THE ABYSS -8番目の譜歌-
あれから数ヶ月が経とうとしていた。あの旅から2年後、皆の元へ帰還したルークは、自分がアッシュとひと
つになったこと、二人分の記憶があることを伝えた。そして正式に成人式が行われた。皆が歓喜にあふれ、
国中――世界中が、一人の英雄の帰還に祝福をした。その後、皆はまた元の生活に戻っていった。
そしてまた、平和な日々が続いていた――
「・・・カっ!・・・プリカっ!レプリカっ!!おい!聞こえるか!?この・・・じゃ、まずい!!
・・・番目の・・・が・・・・・・ ・・・ーク!ルークっ!起きて、ルーク!」
「!!」
「もう。やっと起きたの?あなた、朝くらい起きられないの?」
ルークは、ベッドから体を起こし頭を掻いた。
(今のは、最初の声は、アッシュ・・・?夢、か。)
横でティアは、呼んでも呼んでも起きなかったルークに、軽く腹を立てているようだ。
「もう食事が出来たのよ。早く用意をして。私は先に行っているわ。」
「ああ、ごめん。」
あまりルークは朝起きられないほうではなかったが、今日は何故かなかなか起きてこず、ティアが起こし
に来たのだった。ガイがマルクトに行ってしまった今、ティアがまるでルークの世話係である。
「ふわぁ~。・・・アッシュの夢、か。・・・本当の“ルーク”はおまえなのに、俺がこんなところに居
ていいのか、・・・わかんないよ・・・。」
そうつぶやき、食事をする部屋へと足を向けた。本当にすまなそうな顔をして。
「本当、ティアが居て助かります。ルークと違ってしっかりしていますし。」
「い、いえ;私はそんな・・・;」
「母上・・・っ。そりゃ、俺が悪かったけどさ。」
以前は三人でしていた食事も今はティアが居て四人。ティアもすっかり溶け込み、これが日常であった。
両親は快くティアを受け入れてくれ、ティアも表には出さないが、うれしそうだった。
そこへ、公爵が口を開けた。
「そうだルーク、今朝早くから連絡があったのだが、今日の午前中にローレライ教団から使者が来るよう
だ。何か伝えたいことがあると。」
「あ、はい。父上。・・・なんだろうな。」
「そういえば、アニスは今ごろどうしているかしら。」
「導師だから忙しいんじゃないか?」
そう、アニスは、ローレライ教団の建て直しに成功し、初の女性導師となったのだった。フローリアン
は導師守護役として、アニスの傍に居るらしい。守護というよりは、ただの
話し相手――否、遊び相手らしいが。
「しっかし、よく導師になれたよなぁ。あんな性格で・・・」
「ルーク、アニスに失礼よ。アニスは教団のためにがんばってるんだから。」
「そうだな、・・・でも、な。」
今の一言は悪かったと思ったが、旅の途中のアニスを考えるとなんともいえない気分だった。
またいつものように、食事を済ませたルークは、自室へとつながる廊下を歩いていた。すると、執事の
ラムダスがルークを呼び止めた。
「ルーク様。使者の方がお着きになられましたが。」
「早いな・・・。じゃあ、応接間に案内しておいてくれよ。部屋に戻ってから行く。」
「それが、今すぐにでもと・・・」
ラムダスは、困ったようにそう告げる。
「?」
ルークが眉をひそめると、ドタドタと足音が聞こえた。しかも、確実に近づいている。そしてルークが
気付き、振り向いたのと同時だった。
「ルークッ!!」
「おわぁっ!」
声とともに飛びついてきたのは、懐かしい姿だった。黒い髪。そして、肩に乗っている風変わりな人形――
「アニス!?」
「そーだよぉ。えっへへ。背、伸びたでしょ?」
抱きついたままルークから離れないアニスは、久しぶりに会えたのがうれしいようで、ニコニコしている。
言ったとおり背は大分伸びたようだ。髪も伸びているせいか、結い方は同じでもなんとなく違うように
見えた。
「まさか、ローレライ教団の使者って・・・」
「そ!あたしのコト♥」
あの旅から三年。少なくとも、一年は会っていなかった。アニスも十六歳になったが、この様子ではあま
り性格は変わっているようには思えず、ルークは少し苦笑いを浮かべた。
「アニス!!」
そこへティアが姿を見せ、アニスを見つけると驚き、声を上げた。
「ティア~!久しぶり!ルークとうまくやってる?」
「な、何言ってるのよ////わたしたち、そんなんじゃ・・・」
あからさまにあせっているティアを見て、アニスは機嫌がいいようだ。ルークも顔を赤くし、急いで話
を逸らす。
「というより、導師が導師守護役も連れないで一人で来るなよっ」
「いーもんっ。あたし最強だしっ。新導師には導師守護役はいらないなんて教団では言われてるんだよ。
ひっどくない?」
そう言って、口を尖らせた。
しかし、思い出したように一瞬顔を強張らせるとやっとルークから離れ、真剣に言う。
「・・・・・・ルーク、ティア、伝えなきゃいけないことがあるの。よく聴いて。音素が・・八つ目の
音素が発見されたの!」
「「!!」」
「どういうこと?ローレライの解放から、音素は安定しているのに・・・第八、音素・・・?」
思っても居ない事実に、二人は驚き、アニスに質問を重ねる。
「でも、だからってどうってコトはないんじゃないか?」
「それはわからないわ・・・。アニス、第八音素の属性は何かわかる?」
「それが問題なの。属性はまだよくわかんないけど、第八音素には、人を蘇らせる力があって・・・。」
ルークがそれを聴きすぐに頭に浮かんだのは、今朝のあの声だった。
「第八音素・・・!まさか・・・朝のあれは夢じゃない?アッシュが生きてるのか?」
「アッシュが、生きてる?どういうこと?」
さすがのアニスも驚き、ルークに聞き返す。皆が驚愕を隠しきれないようだった。
「わからない・・・。すごい途切れ途切れで、アッシュってのはわかったけどそんなはずはないって・
・・夢かと思ってたけど、まさかあいつ、第八音素で・・・?」
夢かどうかはわからない。それに加えて突然のことで、喜んでいいのかわからなかったが、とにかくそ
れよりも、本当に人を生き返らせることが出来るのならば世界が混乱する。それはルークにも容易に
わかることだった。
しかし、何故第八音素が発見されたのかわからない。ティアは、第七音素は突然変
異で生まれたと言っていた。ローレライを解放したことでまた新たな音素が生まれたのかもしれないと
も思ったが、考えても答えは出なかった。
「今はこのことは、教団内で抑えてるけど、もし世界中に知れたらやっばいよ!一緒にダアトに来て!」
アニスは落ち着かない様子だった。ルークとティアもかなり焦っているようだった。それもそのはず、
人をよみがえらせるということは、フォミクリーの完全同位体とは違い、被験者の情報を必要としない。
しかも死者の復活を望む者はいくらでもいるだろう。
「それとね、ユリアはこのこと預言してて、第八譜石に書き記したらしくて・・・。」
「じゃあ、第八譜石はあるの?それは今どこに・・・?」
「第八音素発見から、教団で世界中探し回って、それであったの。モースの部屋に!あいつ、隠し持っ
てたみたいで誰も知らなかったの。きっと主席総長までも。大して大きくないから、教団の地下に安置
してあるっ。」
「モースはその内容を知っていて預言に従ったのか?第八譜石にはいったい何が記されて・・・・・・
でも、譜石があってもイオンはもう、居ない・・・。預言は詠みこめないんじゃ・・・?」
ルークは悲しい顔をして、アニスに問いかける。そう、イオン亡き今、預言を詠める者はいない・・・は
ずだった。
「フローリアンが詠むって言い張ってるの!・・・一回だけなら・・・って・・・。イオン様でさえ一度
詠んだら倒れちゃったのに、フローリアンにはそんなことさせたくないけど、でも・・・今は・・・こ
のままじゃ・・・。」
「――わかった!ティア、ダアトに行こう!」
「ええ。」