「君と願いを込めて」 夜空を見るのは嫌いだ。 だって静かで変化はないし 綺麗だからといってなんなのか解らないから。 夜中眠れないのも嫌いだ。 だって思い出したくもない事ばかりが 頭の中を支配するから。 「・・・あーあ。またあの夢だ。眠れないったらねぇ。」 こうやって目が冴えてしまうのは何度目だろうか。 あのアクゼリュスの夢を見て。 「起きててもつまんねぇし、けどまた眠ってあの夢見んのも…あれだな…。」 ふぅ、と溜め息をついて小さな窓から空を見上げた。 今日は星が見える。 ――クロア リュオ トゥエ ズェ・・・ クロア リュオ ズェ トゥエ リュオ レィ ネゥ リュオ ズェ・・・ 仕方なく空を見ていると、透き通るような歌声が聞こえた。 自然に耳に入り込んでくる。 なんど聴いても飽きないなぁと、そのたびに思う。 「・・・ティア?起きてるのかな。」 美しい音色に酔いしれながら、 ベッドから降りて半ば無意識に歩き出していた。 (ちょっ・・・!バカ、俺////なんて話かけたら良いかも 解らないのに・・・!) “ティア、どうしたんだ?こんな真夜中に” ・・・なんか違う。 “ちょっと嫌な夢見て眠れないんだ” ・・・そんな弱音吐けないよ。 “何かあって眠れないのか?” ・・・それは俺だろ。 頭の中で空回り気味に繰り返されるティアへの言葉に、 違う違うと嫌悪感を覚えながらも、思考とは裏腹に足は前へ進む。 普段は何もこんな風に用意周到にならなくても、普通に話していた のだが。何だか混乱してしまう。 夜だから? 二人きりだから? (・・・。・・・俺のアホ!変な事考えんな・・・!) Uターンしたいくらいなのに、気が付けば女性陣部屋のドアの目の前だった。 部屋の中からはティアの大譜歌が静かに聞こえている。 ドアノブに手を掛ける。 (ダメだ!開けるな俺!なんて話したらいいか・・・。) どうして体がつい動いてしまったのだろう。 何故こんなに緊張するんだろう。 (ティアに・・・会いたい、から・・・?) 自分の頭にふと出た言葉に虚をつかれている内に、扉は開いた。 ガチャ・・・ あーあ。もう後戻り出来ねぇ。 「ヴァ ネゥ ヴァ――あら?ルークじゃない。」 ティアと目が合ってしまい、一気に頭の中が真っ白だ。 ろれつの回らない口でも、とにかく言葉を発さなければ。 「あ、えと、ティア・・・げ、げげ元気?」 「?」 ほれみろ、本末転倒だ。 「ゴメンなさい。起こしてしまったわね。こんな真夜中なのに。」 「いや。ち、違うよ。たまたま目が覚めちまって。」 ぎこちない喋り方に、自分がうんざりする。 ティアに変なところを見せるのは嫌だ。 しかも微妙にフォローされた気がする・・・。 「それにしてもルーク。女性の部屋にノックもせず入るなんて、 マナー違反よ。」 「ゴ、ゴメン!!」 しかも始めから大失敗だ。またティアに叱られてしまった。 男が女に叱られるなんて、なんか格好がつかない。 「しーーっ。ナタリアとアニスが起きてしまうわ。」 「えっああ、ゴメン!!・・・ぁ。あはは・・・。」 「・・・。」 またやってしまった。俺って本当バカだ。 涙が出てきそうだよ。 ティアは顔の前に人差し指を出したまま、呆れた顔をした。 「あ、あのさ。小さい声じゃ話しにくいし、外行かねぇか? 星、とか綺麗だし。」 咄嗟に出た言葉。自分で言っておいてびっくりだ。 なに話す事前提で話を進めてんだ俺は。 「そうね。私、星を見るのは好きよ。外、行きましょう。」 ティアは微笑んで頷いてくれた。 ティアが微笑む顔が好きだ。あったかくて、落ち着く。 自分まで嬉しくなるんだ。 「ああ。行こう。」 俺も今度は自然に頷いた。 「うわーっ!星空って・・・こんなに綺麗だったんだなぁ。」 ティアと二人きりで宿の外の丘に登った。 冬の真夜中はさすがに寒いから二人ともコートを羽織って出た。 ここから見上げる夜空は嫌いじゃないと思った。 「ふふ、ルーク。はしゃぎすぎよ。」 「だって・・・なんか。 俺こんなに星とか綺麗だなって思ったの、初めてでさ!」 ティアと話すつもりなのに、すっかり夜空に夢中になってしまう。 でも、あれ? 本当にこんなに綺麗だっけ? 一人で見ても面白くないと思うのは俺だけ? ガイやナタリアとこの景色を見たとしても、 同じように思えない気がするのは思い過ごし? チラッと横を見ると、ティアの横顔が目に入る。月明かりを浴びて、 白い肌がより白く見える。 「なぁ、ティア。」 「なぁに?」 「えぁっ!な、ななな何でもないっ。」 優しく、柔らかに振り向いた。ただ振り向いただけだ。 それだけなのだけど、ドキドキしたんだ。 いつもは戦闘体制でピリピリしているからか、ティアのこんな表情を初めて見た。 顔が赤くなってるかも。 瞬きを忘れそう。 星空よりもティアを見てしまう。 「どうしたの?慌てたりして。・・・でも・・・可愛い・・・(ボソ)」 「なっ!今可愛いとか言ったな!?男に対して失礼だぞ!」 「だって、仕方ないじゃない。ふふふ。」 「あぁ!笑ったな!」 「わ、笑ってないわ。」 「ウソつけ!思いっきり聞こえたぞ!」 「だってルークが、こんな顔してこっち見てるんだから。」 「ぷっ。あはははは!!」 「そ、そんな笑うことないじゃないっ////ふふ、あははっ。」 初めて・・・なんだ。 こんな風にティアと思いっきり笑ったのは。 しょうがないと言えば、そうなのかもしれない。 この世界の行方。 俺達に託されたもの。 俺達が向かう先――。 だけどつい思ってしまう。 このまま逃げ出したい、全てを放棄して君と居たい。 でもそれは出来ない。俺はどっちにしろ消えるんだ。 あの宙に浮かぶエルドラントに背を向けても、消滅に背を向ける事は出来ない。 そして何より、君を守りたい。 世界を守るなんて格好良い理由は持ってないんだ。 だってこの世界に君が居ないなら、俺はきっと闘えない。 僅かでも長く生きたいと、戦場に背を向けてたかもしれない。 「あっ!流れ星!!ティア今の見たか!?あそこらへん!」 「ルークったら子供みたいねっ。流れ星くらいで――あ、また!」 ティアは目を輝かせそう言った後、 俺から目を反らして少し恥ずかしそうに囁いた。 「・・・ねぇルーク、知ってる?流れ星の言い伝え。」 「あー、見えてる間に願いを言うと叶うってヤツ? ・・・あんま信じねぇけどな。」 俺がそういうと、ティアは少し寂しそうに俯いた。 だけどもう一度こっちに向きなおして、言った。 「お願い事をしても損があるわけでもないわ。 ねっ?一度で良いからやってみない?」 「しょうがねぇなぁ。」 口ではそう言ったけど、実は凄く嬉しかった。 信じはしないけど、ティアと一緒に星に願いだなんて・・・。 頭に思い浮かぶ願いはひとつで、それは鮮明だった。 ・・・だけど少し恥ずかしいかな。 だから俺は、ちょっと卑怯だけどティアにこう言った。 「じゃあ公平に、次に流れ星が見えたら、声に出して言おうぜ。」 「こ、声に・・・出して!?」 「うん。お願いだからさ、な?」 「・・・わかったわ。だけど同時によ?はっきりと聞こえたら恥ずかしいもの。」 「もちろんっ!・・・二人でお願いしたら叶うかもしれないしな・・・。」 「えっ?何?」 「なんでもないよっ!――あっ!」 空に咲いた一筋の光。 「ティアと ずっと一緒に居させて下さいっ////」 「ルークと ごめんティア。 この願いは多分叶わない。 隣で頬を赤く染めてこっちを恥ずかしそうに見るティアが、とても愛おしい。 ティアの事だから、俺が消えることを知っていたりして。 それは解らないけど、今隣にティアが居て一緒に笑ってる。 その事実は俺に自然と笑みをくれた。 あまり信じては居ないけど・・・この願いが―― ティアと一緒にした願いが叶えばいいのに。 どうせならこの言い伝え、信じてみようかな・・・? 夜空を見るのは嫌いじゃない。 だって意外と星は綺麗で もしかしたら流れ星が見えるかも知れないから。 夜中眠れないのも嫌いじゃない。 だってあの夜の君との約束を 思い出させてくれるから。 -アトガキ- ルクティア同盟のオンラインアンソロ企画に おかせて頂いた二人の甘々小説です。 短編はなかなか書きなれないんですが、 どうでしょうか? 少しでもルクティア気分を 味わって頂けたら架音も幸せです★