『ガラス玉の僕の命』 「よし!行くぜ!!」 -それはいつもの- 「はっ!せいっ!絶空魔神撃!!」 -大した事もない魔物との闘いで- 「ルーク、後ろよ!!」 -大した事のない- 「ぐっ!・・・やったな!」 -ただの怪我だった- 「トドメだ!魔王絶炎煌!」 -はずだった- 「ルーク、先程の傷は大丈夫ですの?治癒術を――」 「大丈夫だよ。血も大して出てないし。特別痛い訳じゃねぇしさ。」 右腕を見れば少し噛まれた跡が見え、少し出血もしている。 しかし“流れている”とまではいかないようだ。 「ナタリアぁ。アニスちゃんも治して〜。さっきでっかい魔物に吹っ 飛ばされちゃって★」 「まぁ!今すぐ私が・・・!」 「おかしいですねぇ。大きい魔物を次々に吹き飛ばしていたのは誰です?」 「大佐ぁ!か弱い乙女になぁんて事を!」 アニス達の会話に微笑みながらも、イオンはルークを気遣いそう言った。 「あはは。でもルーク。僕には痛そうに見えますが・・・。」 「血が出てるですの!ご主人様怪我してるですの!」 「だぁいじょーぶだって。心配しすぎだよ。」 「そーそー!ルークなんかよりアニスちゃんを・・・!」 「はいはい。雑談はそこまで!ルークも大丈夫そうだし、行くか。」 「そうね。あまりゆっくりはしていられないわ。行きましょう。」 一向はまたこれまでのように目的地への道を歩き出した。 そう、これくらいの傷など本人が言うように大した事はないのだ。 大怪我であればティアやナタリアの治癒術で直せばいい。 多少の傷であればその必要もないくらいであった。 「ガイ。すみませんが目的地まであとどれくらいかわかりますか?」 「随分来たからな。・・・って言ってもあと半分くらいかな。」 「結構距離がありますのね。イオン、大丈夫でして?」 「ええ、大丈夫です。心配してくれて有難うございます。 ・・・ルーク?顔色が悪いですが・・・。」 「えっ・・・俺?ははっ。俺がそう見える? お前そんな事より自分の心配しろよ。」 長距離移動はきつい上に、魔物との戦闘。 戦うメンバーも疲れるのだが、イオンは体が弱い。 戦わずとも体力消費は激しい。今も無理をしているのだろう。 「その通りです。このルートを南下すればするほど 魔物は強くなると考えていいでしょう。」 「みゅうぅぅ〜。ボク怖いですの〜。」 「安心してね、ミュウ。私達がちゃんと守るから。」 4人が闘い2人が守る。 そのチームワークさえあればイオン達を危険にさらす事はない。 「ティアさん優しいですの〜。」 「////」 「ま〜たやってるよ。」 「みゅ!!魔物の気配がするですの!」 皆よりも早く魔物を感知したミュウの声を聞いたとなれば、 予め決めているメンバー4人が戦闘態勢に入る。 武器を構え、イオンやミュウを守るように陣を組む。 オオカミ型の魔物が5匹。 「よし、直ぐに終わらせてやるぜ!」 「調子に乗ると大怪我しますよ。」 ここ付近の魔物は比較的強く、楽勝とまではいかない。 それでも特別問題はなかった。 「き、気を付けて下さいね!」 「まっかせてイオン様!!やっつけてガルドいただき★」 またいつものように戦闘が始まる。 ルークは前衛となり剣を構え魔物へと向かう。 「ていっ!はっ!・・・くっ・・・うあっ!」 「ルーク!ぼーっとしない!」 「はぁっ・・・はぁっ・・・わかってるって!」 おかしい。 そうルークは思う。 今相手にしている敵など大したことはない。 これまでにも戦ってきた魔物だ。 (こいつ、これまでのと同じヤツなのに速い!? 動きが・・・追いつかないっ!) 「そ〜んなフラフラしてるとあたしが全部やっつけちゃうからねっ!」 近くで同じように戦っているアニスにそう言われた頃、 ルークは異変に気付いた。 (視界が・・・歪む・・・!?・・・やべぇ・・・なんか、 皆の声とか・・・変に聞こえ・・・) 視界がぼやけ、周りの音もぐらぐらと聞こえる。 ティアの譜歌でさえ歪んで流れているように感じる。 魔物が強いのではない。自分がおかしいのだと理解した瞬間、 魔物の尾が目の前に迫ってきた。 ヒュンッ!! 「あっ・・・ぐっ!!」 受け身も取れぬまま見事に吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。 起き上がる。そう思っていたのだが、ルークは起き上がらない。 「「「「ルーク!!」」」」 「大丈夫かルーク!おいっ!ルーク!!」 戦っている仲間は直ぐに向かうことが出来ない。 最初にルークの元にたどり着いたのは戦闘に参加していないガイだった。 「く・・・ぅ・・・ガイ・・・。なんか、景色とか・・・すげぇ歪む・・・。」 「ご主人様、どうしたですの?心配ですの・・・。」 ガイが抱き起こし呼びかけるも、辛そうに返事をするだけだった。 とにかく症状を把握しようと額に手を当てた。 熱い。 「!・・・凄い熱だぞ!?ナタリア!!」 「わかっています!――癒しの光よ。ヒール!!」 吹き飛ばされた時の傷は癒えたがルークは一向に良くならない。 そればかりか荒い呼吸を繰り返すだけである。 「まだ苦しそうですの・・・。治らないですの・・・?」 「・・・っ。――リカバー!・・・何故治りませんの・・・!?」 外傷ではなく身体異常があるのかもしれない、とナタリアはリカバーを唱えた。 何も変わらず、ナタリアの顔に悔しさが滲む。 「ガイ、ナタリア!ルークは!?」 「原因はわかりませんが、極度の熱があります・・・。 少し痙攣も起こしているようで・・・!」 敵を一掃し、3人が戻ってきた。 ティアが悲哀な表情で駆け寄る。 ガイの脇で真剣な顔でイオンが声を震わせて答える。 「さっきの攻撃は原因じゃなさそうだ・・・。外面的なものじゃない。」 「一体何があったの?魔物に吹き飛ばされてからしか気付けなくて・・・。」 普段なかなか動じないティアも冷静さを欠いている。 アニスもおどおどしながらジェイドを呼ぶ。 「た、大佐ぁ!ルークどうしちゃったの?さっき闘いながらフラフラしててっ!」 「皆さん落ち着いて下さい。ガイ、少しどいてもらえますか?」 「あ、ああ。」 ジェイドの言葉で、皆少し落ち着いたようだ。 ルークを囲むようにして立つ。 「みんな、俺・・・結構・・・大丈夫、だからさ。・・・進もうぜ。」 「ですが・・・。」 皆に迷惑をかけまいとして無理をするルークにジェイドが淡々と述べる。 「残念ながら今日はここでストップになりそうですね。」 「どういうことだ?」 「高熱、ふらつき。それだけなら病気のように思えますが・・・痙攣、 視神経への異常、急な症状進行があります。」 「・・・それは何の症状、なんですか?」 「毒、です。」 その場は騒然となった。 「し、しかし毒であるのならば先程リカバーを・・・!」 「異常回復の治癒術も効かない毒です。 当然ポイズンボトルも役に立ちませんよ。相当に稀少な物なんでしょう。」 ジェイドは冷静にそう言い放ち、ふぅっ、とため息をこぼした。 「野営の準備をしましょう。」 「ジェイドさん、早くお医者さんに診てもらわないですの?」 「ここからでは街へ行くのに2日程かかります。 それならば私達でどうにかした方が早いでしょう。」 「治療法がわかるんですか?」 「ええ。ですが、ルークを安静にするのが先です。一応言っておきますが、 その毒はさほど酷い物ではありません。 慌てて二次災害を起こさないようにして下さいね。」 「そう。良かった・・・。」 ティアは安堵のため息と共に笑顔をこぼした。 皆の顔からも少し険しさが消えた。 「俺は牧を集めてくる。アニスは料理。イオンはルークを見といてくれ。 ティアとナタリアは周囲の警戒をしてくれ。」 「りょーかい!」 「わかりました。」 「任せて下さいませ。」 「わかったわ。」 それぞれの役を担い、数十分後には野宿を出来る状態になった。 その時は既に太陽は傾きかけていた。 「ルーク、ようやく眠ったみたいね。」 まるで母のような眼差しでティアが見つめる先では、ルークが荒い呼吸のまま寝ている。 「でもご主人様辛そうですの・・・。」 「うん。ほんの少し落ち着いただけで、毒自体はまだ残ってるんだもん。」 “あまり酷い物ではない”そのジェイドの言葉で 落ち着きを取り戻したイオンが問う。 「はやく元気なルークに戻って欲しいです。 ・・・ジェイド、さっき言っていた治療法と言うのは?」 「ルークに怪我を負わせた魔物は牙に毒を持っていますが、牙とある植物を 混ぜて煎じた薬は解毒効力があります。」 「ある植物とはなんですの?」 「・・・聞いた事があるぞ! 確か、そいつらが餌とするハーブの一種だったはずだが・・・。」 「ええ、ガイの言うとおりです。」 説明する手間が省けた、とジェイドは嫌味に笑いながら言う。 その雰囲気につられ、皆の表情が和らぐ。 「その二つを見つけて、薬にしろ・ってコトだよね?」 「ああ。よし、今から捜索開始だ!」 ガイの言葉に気合いを入れ、すくっと立ち上がったところで、ジェイドが口を開く。 「ティアはルークとここに残って下さい。」 「わ、私も探しに行きます!」 苦しむルークの役に立ちたいと反論するティアに ナタリアが優しく微笑みながら告げる。 「毒により失った体力を回復できて、魔物からの攻撃に前衛後衛両方の 対処が出来るのは貴方だけですわ。」 「夜の魔物は怖いですの…。ティアさん一人で大丈夫ですの?」 「なるべく早く見つけてルークを治したいからな。 そんなに残る方に人数は割けない。」 「ええ。それに僕達が残ったところで足手まといになってしまいますから。 ・・・ルークをお願いします。」 「わかりました。皆が戻って来るまでちゃんとルークを守るわ。」 「折角二人っきりなんだからチャンスだよティア!じゃあね!」 アニスの言葉を最後に、ガイ達は発った。 それを見送り、ティアは顔を赤くする。 「こ、こんな時に何言ってるのよ////もう・・・。」 既に陽も落ち、暗い森をアニス達はハーブを探し続けていた。 「葉っぱの色は赤くてー、花びらの色は、えーとぉ・・・なんだっけ?」 「花びらの色は白ですの!」 「そうそう★目立つ色なのになかなか見付かんないねー。」 「そうですね・・・。もう夜ですから余計に見つかりにくい・・・。」 3人が探しながら会話をしている中、ナタリアは不安な面持ちで歩いていた。 「ルークは大丈夫なのでしょうか・・・。」 震え、詰まりながら出た言葉に イオンがゆっくりとなだめるように語りかける。 「ジェイドが大事には至らないと言っていましたし、ルークなら きっと大丈夫だと僕は信じていますよ。」 「ボクもイオンさんと一緒で信じてるですの!ご主人は強いですの!」 「そうですわね。ガイも心配していましたし、とにかく今は早くハーブを 見つけるしかありませんわ。」 2人の力強い言葉にいつものナタリアらしさが戻ったようだ。 頼りある凛とした声で答えた。 しかし、今度はミュウが下を向いてしまった。 「ガイさんとジェイドさんは魔物の牙を取りに行ったですの。 心配ですの〜・・・。」 「あの二人に限ってそんな事ないっしょ★ それよりガイとルークが居ないとからかう相手居なくて退屈ー。」 “さすがにそれはあり得ない”と笑いながらアニスは答えた。 「仕方ありませんわ。緊急事態ですもの。 それにガイがジェイドに話したい事があると言っていましたし。」 「怪しーい!」 「もしかして二人共、もう牙を見つけて戻っているかもしれませんよ。」 「えー。イオン様はガイが大佐に何話すか気になんないんですかー?」 「僕達に聞かれたくない大事な事なのかもしれません。 それより、折角二人が牙を見つけて戻ったのにハーブが無いのでは お話になりませんよ?僕達も頑張りましょう。」 「はいですの!!」 アニス達とは別行動を取ったガイとジェイドは もうひとつの目的――ルークに毒を負わせた魔物を探していた。 戦い、牙を奪うためだ。 「なぁジェイド。ひとつ聞いていいか?」 「構いませんよ。」 突拍子もないガイの質問にそっけなくジェイドは返事をした。 「ルークの事・・・なんで嘘をついた?」 真剣に、半ば怒りながら問う。 「嘘などついた覚えはありませんが?」 「俺達でなんとかするのは医者に行くより早いからじゃない。 街に着くまでの二日間、ルークがもたないからだ。」 確信をついたガイの言葉に、今度は真面目に言葉を返した。 「気付いていましたか。」 「なんでその事を言わなかった!皆ルークを心配してるんだぞ!」 それでも淡々としたジェイドの態度に耐えかねたのか ガイは怒りを隠せず大声で言った。 それに対しても、さっきと変わらない口調でジェイドは答える。 「言うことによりメリットはありますか? 私が『あと2日と持たずにルークが死ぬ』と伝えることに意味が あるようには思えませんが?」 「・・・・・・っ。」 「仮に真実を伝えたとして、無用な混乱を招く可能性もある。」 「・・・すまなかった。早くあの魔物の牙を見つけよう。俺もそっちに集中する。」 ガイは大人だ。 ジェイドの言葉に納得し抑えがたい感情を無理矢理抑え、また捜索を始めた。 「皆が帰って来て、薬を調合したら治るから、もう少し頑張ってルーク。」 未だに眠りながらにうなされ続けるルークにティアはそっと話しかける。 いつ返事をしてくれるのかと、不安にかられながら。 ズゥン・・・ズゥン・・・ するとその時。直ぐ近くで大きな音がした。 何か重い生き物が歩くような。 「魔物!・・・ルークを・・・守らなきゃ!!」 強い決意を胸に刻み、ティアは杖とナイフを構え立ち向かう。 「せいっ、たぁ!・・・くぅっ!!セヴァードフェイト!バニシングソロウ!!」 出来る限り速く連続で技を繰り出すが 一瞬の隙をついて魔物が渾身の一撃を振りかざす。 (!!駄目・・・!避けれな・・・っ) キィンッ 衝撃を覚悟した時だった。 鈍い音と共に痛みが走るはずなのだが、聞こえたのは、鋭い音。 「・・・?」 「大丈・・・夫、か?・・・ティア。」 「ルーク!!あなたこそ、毒が!」 ティアを守るように立っていたのはルークだった。 「迷惑・・・かけて、ほんと、ごめんな・・・。 でも今はあいつ倒さな・・・いと。ティア、援護頼む!」 立っている事さえ辛そうに話していたが、最後は力強く言い放つ。 ティアも戦闘態勢に入る。 「え、ええ!――『クロア リュオ クロア ネゥ トゥエ レィ クロア リュオ ズェ レィ ヴァ』」 「ていっ!はっ!くっ・・・飛燕瞬連斬!」 「癒しの力・・・『ファーストエイド』!」 「やって・・・やるぜぇ!・・・うおぉぉ!これでも・・・喰らえぇっ!」 二人の連携の末、魔物は倒れた。ティアはほっとして、喜ぶ。 「やったわ!有難う。ルークが助けてくれなかったら――」 ドサッ 「ルーク!!」 感謝の言葉を告げる前にルークは力無く倒れてしまった。 やはり毒に侵された体にとって戦闘は苦しい物なのだ。 「ゴメン、迷惑かけて・・・。なぁ、ティア。 ・・・俺、思ったんだ・・・。人って・・・結構、脆いんだなーって・・・。」 一言を深く謝ると、少し間をおいてルークは口を開いた。 「・・・。」 「これまでもさ、結局・・・なんとかなってたし・・・。 俺、これからの事――ヴァン師匠の事も・・・心の、何処かで なんとかなる・・・気がしてた。」 「ルーク・・・。」 「・・・でも、俺はここで・・・死んでたかも・・・しれない・・・。 それ考え・・・ると・・・少し、怖くなった。」 ルークの正直な言葉と弱音に、ティアはただうなずくと 今度は同じ気持ちで少し哀しそうに言う。 「私も同じこと考えていたの。 人の命は、ガラス玉みたいに簡単にに壊れてしまうって・・・。」 「・・・俺は・・・レプリカ、だけど・・・。生まれ・・・て、良かった。」 ルークは弱々しくも嬉しそうに言い、ティアはいつまでも傍に居た。 「皆ー!目的地見えて来たぜー!」 翌日は良く晴れた雲ひとつない気持ちの良い日だった。 その中を、赤い髪が揺れる。 「ご主人様早いですの!待ってくださいですの〜!」 「おいおい。病み上がりなんだから跳ね回るなよー!」 「そうですわルーク!聞いていますの!?」 「ルーク早すぎぃ〜!んもぉー!」 「ちょっ・・・、ルーク!イオン様のことも考えて!」 騒いでルークを追いかける皆を見ながら ジェイドはひとりため息をついた。 「全く。治ったと思えばこれですか。ずっと毒で寝ていた方が良かったですね。」 そう呟いたジェイドの横で少し嬉しそうにイオンが話しかける。 「そうは言ってますが、心配してたじゃないですか。」 「人を心配させておいてあの態度は、と言ったんですよ。」 「僕はあなたがちゃんとルークの心配をしていた事、知っています。」 「イオン様、何を言い出すんですか?」 「ふふふ。嬉しそうな顔してますよ。」 「おーい!イオン早く来いよー。」 「は、はい!今行きます!」 青い空、 吹き抜ける風、 赤い髪。 長い旅の中の、いつかの物語・・・。 アトガキ なっっっがっっっっ・・・!! はい!これはTOAボイスドラマ様の、サブ企画に採用して頂いた小説です。 私が無理な内容を書いて・・・;; にも関わらずあんな素敵なVDになって感動しました!! こういうのって・・・嬉しいですね・・・★ なんか、番外編系の話を書けと言われた時に、 ほんわりした楽しい話が書けないんですよ!!(涙) なんでこう・・・戦闘シーン在りシリアス微暗な話に・・・(涙) ぜひぜひ、ボイスドラマの方も聴いて下さいな★